義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます


「あ、優くん! 来てたの?」

 元気いっぱいの声と一緒に、蘭が駆け寄ってきた。
 ……と思ったら、目の前で盛大につまずいた。

「わっ」

 反射的に腕を伸ばして、なんとか受け止める。

「……っ、優くん」

「ら、羽鳥さん」

 あぶない。今、普通に名前で呼ぶところだった。

 蘭はそのまま寄りかかるような格好で、上目遣いにじっと見つめてくる。
 気まずくて、私は慌てて視線を逸らした。

「羽鳥さん、大丈夫ですか?」

 間に入るように流斗さんが声をかけ、やんわりと蘭を引き離してくれる。

 すると蘭は不満そうに頬をふくらませ、流斗さんをじろり。

 ……え、前は憧れてたよね?
 その態度、どうなの。

 心の中で小さく突っ込む。

 気を取り直した蘭は、また私に向き直ってにこっと笑った。

「優くん、もう体調はいいの?」

「え! あ……うん」

 曖昧に答えると、彼女の顔が輝いた。

「私のクラス、メイド喫茶やってるの。可愛いメイドさんいっぱいだよ。
 リクエストしてくれたら、私もメイド服着ちゃうし。ね、来て?」

 そう言うが早いか、ぐいっと私の腕を引っぱる。

 困り果てた私は、流斗さんに目で助けを送った。
 助けて~って。

 けど彼は苦笑いして頭をぽりぽり。そっと“ごめん”のジェスチャー。

 ……それって、行ってこいってこと?

 はあ、もう。しょうがないなあ。
 蘭って、一度決めたら絶対引かないんだもん。
 見つかっちゃった以上、観念するしかないか。

 私はそのまま引きずられていく。
 ふと振り返ると、流斗さんが申し訳なさそうに手を上げていた。

 さすがの彼でも、彼女の勢いには歯が立たないらしい。

 ほんと、蘭のこの勢い。私にも少し分けてほしいよ……。

 ……なんて思ってる時点で、やっぱり私は変われないんだろうな。