人の気配に顔を上げる。
二人組の女生徒が、ひそひそと内緒話をしながら横を通り過ぎていった。
「ねぇ、知ってる? 川野咲夜さん……彼女と別れたんだって」
その言葉に、はっと振り返る。
「え! 嘘! じゃあ、私たちにもチャンスあるってこと?」
隣の子が嬉しそうに声を上げると、もう一人は冷静に返した。
「あんた……馬鹿ね。フリーになったからって、私たちなんか相手にするわけないでしょ?
あの人、どれだけ人気あると思ってるの」
相手の子はしゅんと肩を落とす。
「そうだよねぇ。あーあ、どこかにいい男いないかなあ」
そのまま恋バナを続けながら、二人は遠ざかっていく。
頭の中が真っ白になり、体の動きが止まる。
ただ立ち尽くし、二人の背中を見送っていた。
お兄ちゃん……加奈さんと別れたの?
どうして、いきなり。
心がざわつき、心臓が不規則に跳ねる。
ゴクリと喉が鳴った。
「……優くん? どうしました?」
ふいに、流斗さんの優しい声が降ってきた。
「え? あ、いえ……」
さっきの話、聞こえてなかったのかな。
それとも、知っててとぼけてる?
わからない。
それより――あの噂は、本当なんだろうか。
戸惑いと焦りがじわじわ広がっていく。
そのとき。
パタパタと足音が近づいてきて――
