顔を伏せて黙り込んでいると、流斗さんがそっと微笑みかけてきた。
「せっかくだし、優くんの姿で残りの学園祭楽しみますか?
たぶん誰が来てるかなんて、そんなに把握されてないと思いますよ」
たしかにそうかもしれない。
みんな準備や対応に追われて、他人のことなんて気にしている暇はない。
……と思ったけど、どうしても気になることが。
「でも……蘭とか。私のこと、探すかも」
ふと口にした不安に、流斗さんはクスッと笑って肩をすくめた。
「羽鳥さんはクラスの出し物で手いっぱいですよ。
もし聞かれたら、僕が適当に誤魔化します」
そう言って、いつものようにウインクをひとつ。
その仕草に、ほっと心がほぐれていく。
本当に、この人なら何とかしてくれる――そんな気がしてしまう。
頼もしくて、つい甘えたくなる。
「そうですね。じゃあ、そうしようかな」
私が笑うと、流斗さんがそっと手を差し出してきた。
「え……」
戸惑いと一緒に、苦笑いがこぼれる。
「流斗さんと優が手を繋いでたら、誤解されません?」
「え? 僕と優くんがデキてるって? ははっ、そっか」
少し考え込んでから、困ったように口元をゆるめる流斗さん。
その様子が可愛くて、笑みがこぼれる。
つられるように、彼も照れくさそうに目を細めた。
この空気――心地いい。
ずっと、こんな時間が続けばいいのに。
笑い合っていると、つい本気でそう思ってしまう。
けれど、それは叶わない。
私には、言わなくちゃいけないことがある。
……それなのに。
どうして、まだ言えないんだろう。
