義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます


 その瞬間、周囲から拍手がわっと広がる。
「すごーい!」と歓声も上がって、たくさんの視線が私たちに集まった。

 なんだかいたたまれなくなり、視線を落とす。
 ふと横を見ると、流斗さんも同じように目を伏せ、照れたように笑っていた。

「はい、唯さん」

 ぬいぐるみを手渡された私は、そっとそれを抱きしめた。

「ありがとうございます……。
 流斗さん、射的まで上手なんですね。本当に何でもできて、すごいです」

 笑顔を向けると、流斗さんの頬がほんのり赤く染まる。

「いえいえ。唯さんのためだと思ったら、不思議と力が出ました。
 ……唯さんのおかげです」

 その優しい笑顔に、胸がぎゅっと痛んだ。

 こんなに想ってくれているのに……。なのに私は。
 彼の気持ちを弄ぶようなこと。

 こんなこと続けてちゃ、ダメだ。

「あの、流斗さん――」

「そうだ、もうひとつ行ってみたい場所があるんです。いいですか?」

 言葉をかき消すように、流斗さんがふいに笑って私の手を取った。

「え、あ……はい」

 結局また、何も言えなかった。
 そっと彼の背中を見つめる。

 そのまま私は、いつもより少し強引な流斗さんに手を引かれていった。



 次に訪れたのは、お化け屋敷だった。

 理科室と実験室をつなげて使っているのか、かなり本格的な作りになっている。
 窓には黒いカーテンが貼られ、入口には赤いペンキで「呪」と書かれた看板。
 中からはうめき声のような効果音まで響いてくる。

「へぇー、思ったより凝ってますね」

 表で立っているお化け役の生徒を眺めながら、流斗さんがにこにこと笑う。

「こういうの、好きなんですか?」

 私はちょっと憂鬱な気分で尋ねた。
 怖いの、あまり得意じゃない。

「いや、好きとかじゃなくて……カップルの定番かなって思って。
 唯さんと来てみたかったんです」

 穏やかに、でもどこか愛しそうな目で私を見つめてくる。

 カップル。
 そう、私たちは“そういう関係”のはずなのに。

 でも、私の心は、まだ――。

「さ、入ってみましょう」

 流斗さんに引かれ、お化け屋敷の中へと誘われていく。

「ちょ、流斗さん、待って。まだ心の準備が……!」

 私の言葉に、彼はふっと笑って、

「大丈夫。僕がついていますから」

 そう言って、ウインクをしてみせた。