「よーし、これなら集客間違いなしね! 唯、ドアの前にゴー!」

 蘭に背中を押される。

「えっ!? ちょ、ちょっと――」

 そのまま教室の外へ押し出された。

 と、その瞬間。

「ゆ、唯さん?」

 入口で、流斗さんとばったり。
 ばっちり目が合った。

 お互い目を大きく見開く。

 な、なんで……こんなところに流斗さんが!?
 目を泳がせながら、私は必死に声を振り絞った。

「は、はいっ」

 すぐに俯く。よりによって、どうしてこのタイミングなの。
 は、恥ずかしいよぉ。

「可愛い……」

「ええっ!?」

 そのひと言に顔がカッと熱くなる。
 見上げると、流斗さんの頬がほんのり赤い。

「そ、そんな……」

 恥ずかしさのあまり、私はまた俯いてしまう。
 隣で蘭が、いたずらっぽく笑った。

「ね! 可愛いですよね?
 流斗さんもどうです? この子の給仕で何か注文でも」

 蘭がノリノリで私を売り込む。

「はい、もちろんです。
 唯さんがお相手してくれるなら」

 流斗さんが嬉しそうに微笑んだ、そのとき。
 後ろから男子たちの声が飛ぶ。

「俺も!」
「あ、俺も、川野さん指名で!」

 次々に手を挙げる男子たち。
 すると流斗さんがくるりと振り返り、ぼそっと何かをつぶやいた。

 声は小さくて、私には聞こえなかった。
 けれど男子たちは一斉に黙り込み、気まずそうに視線をそらす。

 ……な、なに言ったの?

「まあまあ、流斗さん。ここは大人の対応でお願いしますよ。
 唯はあなた専属ってわけじゃないんですから、うちの売上にも貢献してください。
 きっと唯も喜びますよ~」

 にやついた蘭が耳元で何かを囁くと、流斗さんはふいに私を見た。
 なんだか、ちょっと嬉しそう?

 よくわからないまま、私は曖昧な笑みを浮かべる。
 クラスのため、だもんね。

 すると流斗さんは、納得したように何度かうなずいた。

「……わかりました。でも唯さんの一番のお客さんは僕ですから」

 ふくれたような表情の流斗さんが可愛くて、つい笑ってしまう。


 こうして、私たちのクラスの出し物――メイド喫茶の幕が開けた。