今日は学園祭。
 この機会を逃すものかと、私は朝から気合を入れていた。

 何か、きっかけがほしい。
 学園祭って、普段とはちょっと違う空気を漂わせてくる。

 行動を起こすには……うん、背中を押されるような気がするのだ。

「唯!」

 急に呼ばれて、あわてて振り返る。

「ふぁいっ!」

「何とぼけた声出してんのよ、もうそろそろ着替えなきゃ」

 蘭がにんまりと笑っている。
 その手にある衣装を見て、私はため息をついた。

「それ、着なくちゃダメ?」

 私の問いかけに、蘭は満面の笑みで頷く。


 観念して更衣室へ。着替えて戻ると、教室の空気がふっと変わった気がした。

「じゃ、じゃーん! 唯、可愛いっ」

 蘭が目を輝かせながら私を見つめてくる。

 本当にこういうの、好きだよね……蘭って。
 私は呆れ顔になる。

「本当、川野さん、可愛い!」
「ね、どっかのアイドルみたい」
「さすが、川野家の血は争えないわね」

 気づけば、私のまわりには人だかりができていた。

 そう、学園祭。
 私たちのクラスは、メイド喫茶をやることになっていた。

 朝から教室や廊下には、メイド服の女子たちがあふれている。
 チラシ配りをしている子もいて、すっかり学園祭モードだ。

 私はこの衣装が恥ずかしくて、ぎりぎりまで着替えを避けていたのに……。
 蘭に強引に着替えさせられた結果が、これだった。

 女子たちに囲まれてきゃっきゃとはしゃがれ、遠巻きにいる男子たちにまで見られている気がして。

 は、恥ずかしい……。

 何を隠そう、私は目立つのが苦手なのだ。
 できれば、そっとしておいてほしいのに。