「……なぁ」
唐突に声をかけられ、咳き込んだ。
ミルクが変なところに入ったらしい。
「大丈夫かよ。ほんとに唯はしかたない奴だな」
兄が笑いながら、背中をさすってくれる。
うぅ、情けない……。
その手の温度にすら、ドキドキしてしまうなんて。
私が落ち着いたところで、兄が静かに口を開いた。
「今日さ――悪かったな。加奈が、おまえに嫌なこと言って」
「え!」
思わず目を剥いた。
どうして知ってるの!? あの場所にいたの?
「……ごめん。見てたんだ。止めようと思ったんだけど、流斗が来たから出て行きづらくて」
兄は気まずそうに笑い、視線を逸らした。
見られてたんだ……。恥ずかしい。
え、ってことは――流斗さんとのあの場面も!?
息を呑んで兄を見つめる。
「加奈のこと、本当に悪かった。あいつ思い込み激しくて……。
ちゃんと俺から言っとくから」
兄はまっすぐに私を見つめ、真剣な顔で頭を下げた。
いろんなことが一気に押し寄せて、思考が追いつかない。
戸惑いつつ、私は慌てて手を振った。
「ううん、いいの。加奈さん、お兄ちゃんのこと大好きなんだよ。
だから……大切にしてあげて」
胸がきゅっと痛む。
……なに言ってるんだろう、私。
本当は――
加奈さんが羨ましくて、たまらないのに。
熱くなった目元を隠すように、そっと顔を背けた。
