その夜。今日は月に一度、両親がデートに出かける日だった。
この家の恒例行事。仲良く腕を組んで笑顔で出かけていくふたりを見送れば、兄と私、ふたりきりの時間が始まる。
「さて、と。今日は何が食べたい?」
いつものように、兄が夕食のリクエストを聞いてくる。
その笑顔も、いつも通り。
まるで今日の出来事も、最近のいろいろも、何もなかったみたいに。
「うーん、パスタ?」
「おっ、じゃあ唯の好きなカルボナーラにしよう」
張り切った声とともに、兄はキッチンへ向かった。
兄は、私の好みに合わせていつもご飯を作ってくれる。
しかもこれが本当に美味しくて――もう他の料理が物足りなく思えるくらい。
……まあ、母の料理は別だけどね。
エプロン姿で鼻歌まじりに動き回るその背中を、そっと見つめる。
今日のこと、もう頭にないのかな。
そんな思いがよぎり、胸がきゅっとする。
どうせ、気にしてるのはいつも私だけ。
小さく息をついて、リビングのソファに腰を下ろす。
テレビでも眺めながら、料理ができるのを待つことにした。
