すぐに父と母が呼び集められ、家族会議が始まった。
 私たちはリビングのソファーに座り、向かい合う。

「へえ〜、本当に唯なのかい?」

「唯ちゃんは男の子になっても可愛いのねえ」

「そうだね、美男子だ。これならアイドルにでもなれるかも?」

「それ、いい! 素敵〜」

 父も母も、ニコニコと話に花を咲かせている。

 初めこそ少し驚いていたけれど、もうすっかりこの状況を受け入れている様子だった。
 それどころか、私の男の姿を気に入ってるようにすら見える。

 さすがというべきか、なんというか……。

 本当にこの夫婦は侮れない。
 おっとりした空気の奥に、とてつもない懐の深さを感じる。

 だって、娘が急に男になったっていうのに、母は私をどう着飾るか悩み、父はもうこれからのことを考えているんだから。

 すごい柔軟性……きっと、他の家族ではこうはならないと思う。

「いつ元に戻るか、わからないんだよねえ?」

 父が真剣な顔で問いかけてくる。

「うん……どうしてこうなったのか、戻る方法も、全然わからないの……」

 私はうなだれながら答えた。

「これは僕の提案なんだけど」

 父が私の肩に優しく手を置いた。
 何事かと父を見つめる。

「ずっと学校へ行かないわけにもいかないし、その恰好のまま転校生として学校へ行くっていうのはどうかな?」

 にこにこと微笑む父には、悪意なんてひとかけらもない。
 純粋に私のことを思ってくれているのがわかる。

 でも……そんなことできる?
 正体をばらすことなく学校生活なんて送れるのかな。
 次々に不安が押し寄せてくる。

 ていうか、なんでそんな発想になるの!?

 私は不安げなまなざしを父に向けた。

「父さん、ちょっと楽しんでる?」

 兄がすかさずツッコミを入れる。
 そう、私もまさにそれを思ってた。

 父は一瞬、笑顔で固まったものの、すぐににこりと笑ってウインクする。

「そうだね。こういう事態になったんだから、それを楽しもうと思ってさ。
 ほら、悩んでいても何も解決しないわけだし、これをいい機会だと思って。
 唯も男性の気持ちがわかって、いい勉強になるかもしれないよ」

 父の前向きすぎる発想に、私は唖然とした。

 なんてポジティブな人なんだろう……。
 いや、前からわかってたけど。

 でも、こういうところが尊敬できるところでもあるんだよね。

 父といると、いつも落ち込むことを忘れそうになる。