ぼんやりと踊る姿を眺めていると、兄が不満そうに口を開いた。

「おい、俺にだけ踊らせるのか? おまえも踊れよ」

 そう言いながら近づいてきた兄は、私の右手を取り、もう一方の手を腰に回してくる。
 まるで社交ダンスのような体勢になった。

 体がぴたりと密着して、心臓が一気に跳ね上がる。
 ひ、ひえー……ドキドキが止まらないっ。

 でも、嬉しいかも。
 ひとりでほくそ笑んだあと、ふと疑問が浮かび、口にした。

「お兄ちゃん……社交ダンス、踊れるの? 私、踊れないけど」

「は? 別にいいだろ。おまえは俺に身を任せてりゃいいんだよ」

 兄はそのまま、適当なリズムで踊り始める。
 それは社交ダンスでもなんでもなくて、きっと思いつき。

 でも、自然と引っ張られていく。

「もう、なにそれ……」

 可笑しくなって、笑ってしまう。
 兄もつられるように笑顔を見せた。

「やっぱ、おまえといると楽しいわ」

「えっ……?」

 その瞬間、兄の動きが止まった。

 しまった、という顔。
 今の言葉は、言おうとして言ったわけじゃなく、口からこぼれたもの……?