私は兄の後を追い、校舎の中へ足を踏み入れた。

 いったい、どこへ行ったんだろう。
 廊下はしんと静まり返り、人の気配がまるでない。

 そういえば、今は体育祭のあとで、生徒たちはそれぞれ自由時間を過ごしている。
 ほとんどの生徒や先生たちは、校庭で開かれているダンス大会に参加しているはずだ。
 この校舎にいる人なんて、ほんのわずかしかいないだろう。

 私は廊下を歩きながら、あたりを見まわす。
 けれど、兄の姿は見つからない。

 一階を探し終えたあと、階段を上がり二階へ向かう。

 そのとき――遠くからかすかな物音が聞こえた。

 立ち止まり、耳を澄ます。
 音は三階から響いてくるようだ。
 私は迷わず階段を上り、兄の教室へ向かった。


「ここだ」

 兄の教室の前で足を止める。
 そっと扉の隙間から中を覗き込むと、やっぱりそこにいた。

 窓辺の机に腰掛け、外をぼんやりと見つめている。
 開け放たれた窓から吹き込む風が、兄の髪をやわらかく揺らした。

 夕日に照らされた横顔があまりにも綺麗で、思わず見惚れてしまう。

 ダメ……また。
 なにしてるんだ、もう。

 流斗さんの顔が脳裏に浮かび、心がざわつく。
 さっき、どこか様子が変だったけど、大丈夫かな……。