視界の隅に、兄の姿が映る。
トクン、と胸が鳴った。
どこか陰のある背中。
そのまま校舎の中へと歩いていく。
見つけた……やっぱり探してた。
そのまま、兄に吸い寄せられるように動き出す。
「優くん?」
背後から声がして振り返ると、そこには流斗さんがいた。
少し悲しそうな瞳で、私をじっと見つめている。
どうして、そんな顔をするの?
「どこへ行くんですか?」
その声は、いつもより少し低かった。
「え……っと……」
言葉が詰まる。
兄のところに行くなんて、言えるわけがない。
「咲夜……ですか?」
その名前が出た瞬間、顔を上げる。
流斗さんと目が合った。
揺れてる。
彼の戸惑いや迷いが、そのまま瞳に映っていた。
「別に、僕に遠慮しなくていいですよ」
流斗さんが、ふっと力なく笑う。
「え、遠慮なんて……。ただちょっと、咲夜が元気ないみたいだったから……」
これは半分だけ本当。
勝負に負けた兄が元気をなくしているように見えて、その姿が気になった。
流斗さんはほんの一瞬視線を伏せ、それから複雑な表情でそっと微笑む。
「ええ、わかっています。優しいですからね、唯さんも、優くんも……咲夜も」
そう言いながら、眉を寄せて苦しそうに笑った。
「……ほんと、困ります」
少し沈黙が落ちる。
「行ってあげてください。咲夜なら校舎の中にいます」
「流斗、さん?」
その表情が気になり、私は彼を見つめ返す。
けれど、流斗さんは私から逃げるように背を向け、足早に歩き出した。
遠ざかる背中に、何も言えず立ち尽くす。
だって――
いったい、どんな言葉をかければいいのか、わからなかった。
