流斗さんがわずかにリードする。
けれど、すぐに兄がその距離を詰めていく。
今度は兄が一歩抜け出し、次の瞬間には流斗さんが並ぶ。
息を呑むような攻防。
うー、手に汗を握るとはまさにこのこと。
そして、徐々に兄が前に出る。
流斗さんとの距離が、少しずつ開いていく。
流斗さん……。
「流斗さん! がんばってー!!」
思わず叫んでいた。
無意識だった。
彼がさっき私を助けてくれたことが、胸に残っていたのかもしれない。
その瞬間、流斗さんのスピードが一気に上がった。
兄との差をぐんぐん詰めていく。
追いついた……いや、追い抜いた!
気のせいか、兄の動きが少し鈍ったような?
そのまま、流斗さんが一着でゴールイン。
お兄ちゃんは二着だった。
「すごかったね。二人のためのレースって感じだった」
蘭が興奮冷めやらぬ様子でつぶやく。
「……ところで、優くんはどうして流斗さんを応援したの?」
なぜか探るような視線で私を見てくる。
しまった。試合に夢中で、蘭が隣にいることを忘れてた。
私は目を逸らしながら答えた。
「うーん、なんとなく……変かな?」
問い返してみると、蘭はにっこり笑った。
「ううん、流斗さんって優しいもんね。応援したくなる気持ちわかるよ。
もし優くんが出てたら、私は優くんを応援してた」
そう言いながら、蘭がまた少し距離を詰めてくる。
私はじりじりと間合いを取るようにして、苦笑いを浮かべた。
ほんと、蘭のこの積極的な姿勢。尊敬するよ。
私も、こんなふうに“好き”をさらけ出せたなら……って、何考えてるの!?
試合は、もう終わったんだ。
早く、流斗さんのところへ行かなきゃ。
「おめでとうって、言わなきゃ……」
私は足早に、彼のもとへ向かった。
