私はあたりを見回しながらつぶやいた。
「たしか、このあたりだったよね」
三年生男子二百メートルのスタート地点は、この先のはずだ。
周囲には三年生の男子たちが集まり始め、腕を回したりストレッチをしたりと、軽く体をほぐしている姿が目に入る。
私は人ごみをすり抜けながら、兄と流斗さんを探した。
応援の生徒たちでごった返す中、ちらちらと視線を動かしていると――
「あ、流斗さん」
隣にいた蘭がつぶやいた。
その視線を追うと、流斗さんがこちらへ駆け寄ってくる。
やがて目の前で立ち止まると、私に向かって微笑んだ。
「やあ、来てくれたんだね。……優くん、僕のこと応援してね」
目が合った瞬間、彼の瞳に強い光が宿った。
ドキッとする。
いや、なんだろう、この胸騒ぎ。
やっぱり、今日の流斗さんはどこか違う。
……いや、まって。
こ、これって。もしかして私、釘を刺されてる?
お兄ちゃんより、ちゃんと“彼氏である自分”を応援して、ってこと?
いや、そうだよね。
だって彼氏なんだし、当たり前だよ。
「はい、もちろんです。頑張ってくださいね」
私はにっこりと笑って返した、まさにそのとき――
