義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます


「え!? 優くん?」

 私の姿を見た瞬間、蘭の目がぱっと見開かれる。
 そのまま勢いよく近づいてきて、上から下までまじまじと見つめられた。

「え、どうして? 今日お休みだったんじゃ……」

「あー、優くんは先ほど来られたんですよ」

 流斗さんが、あくまで自然な調子で言った。

「朝は体調がすぐれなかったらしいんですが、お昼頃には回復して、体育祭をちょっとだけ見に来たみたいです」

 しれっと嘘をつく流斗さん、さすがだ……。

「はぁ、そうなんだ……。でもよかった。
 なら、一緒に体育祭楽しみましょう!」

 嬉しそうに笑う蘭の顔がまぶしくて、胸がちくりと痛む。
 嘘をついてばかりの自分が、彼女の想いを踏みにじっているような気がして。

 その喜びに応えるように、私は無理やり笑顔を作って頷いた。

「うん……羽鳥さん、ありがとう。よろしくね」

 そう言うと、蘭はふわっと頬を染める。

「そんな。あ、ところで唯は?」

 キョロキョロと辺りを見渡しながら、蘭が尋ねる。

「流斗さん、唯のこと見に行ってくれたんですよね? 大丈夫なんですか?」

 ぐいっと流斗さんに詰め寄る蘭の顔は真剣そのものだった。
 その必死さに胸が熱くなる。こんなにも心配してくれているなんて……。

「ええ、大丈夫ですよ。あの悪女からは無事救出できましたし……」

 え、悪女?

 思わず、流斗さんを見つめる。
 それってまさか、加奈さんのこと?

「ただ、唯さん……少し体調を崩されてしまって。大事を取って帰宅されたんです」

「ええ!? 唯、大丈夫なの? あの女に何かされたんじゃ!」

 蘭が流斗さんにしがみつき、体を思いきり揺さぶる。
 流斗さんはよろけながらも苦笑を浮かべ、やんわり蘭の肩を押し返した。

「だ、大丈夫ですから。安心してください。唯さん、羽鳥さんに感謝しておられましたよ」

「そっか……」

 蘭はほっとしたように笑ったけれど、その目にはまだ心配の色が残っている。