「本当は帰った方がいいのかもしれない。でも……
僕のことを、見ていてほしいんです」
彼の真剣な眼差しが、まっすぐに私を射抜く。
ゆらぐ瞳の奥に、切実な想いがにじんでいるように見えた。
どうして、そんな目をするの?
午後の競技に出る流斗さんを、見届けてほしいってことだよね?
それなら、もちろん――そうするに決まっている。
私はにこりと微笑んだ。
「はい。もちろん応援します!」
その言葉に、流斗さんが目を細め、今度は決意のこもった眼差しを返してきた。
「……ありがとう」
彼の様子がどうもおかしい。
いったい、どうしたんだろう……。
胸の奥に、不思議なざわめきが広がっていく。
そんなとき。
「あっ……蘭!」
ふと思い出した。
そういえば、蘭はどうなったんだろう。
「心配してないかな?」
そわそわしながら問いかけると、流斗さんが苦笑する。
「してると思いますよ。
あなたのこと、羽鳥さんが教えてくれたんです。
“唯が連れて行かれた!”って、必死で訴えてきて」
「え……」
そんなことが。
だから、流斗さんがここに現れたんだ。
胸がじんと熱くなる。
蘭……ありがとう。
私は心の中で親友に手を合わせた。
けれど、すぐに現実に戻される。
「あ、でもどうしよう……今、私、優だ」
蘭にどう説明すればいい?
また焦りはじめると、流斗さんがそっと寄り添ってくれる。
「それなら、先ほど言った通りにしましょう。
僕がきちんと説明しますから、大丈夫」
その頼もしい笑みに、ほっとする。
彼が傍にいれば、すべてうまくいくような気がしてくる。
こんなにも優しくて、頼りになって、素敵な人が彼氏なんだ……よね。
私は果報者だよ、流斗さんを大切にしなくちゃ。
心の中で繰り返し、自分に言い聞かせる。
っと、だめだ。また忘れるとこだった。
蘭を早く安心させてあげなきゃ。
頭を切り替えながら、私は流斗さんと足早に蘭のもとへ向かうのだった。
