「……驚いたでしょ? 僕の父のこと」
その表情が、ふと曇る。
私は、加奈さんのあの言葉を思い出していた。
“流斗さんの父親は、借金を抱えて逃げた”
とても信じられないけど、彼の様子からして、あれは本当だったのかもしれない。
でも――
「……はい。確かに、驚きはしました。でも、私は気になりません。
人にはそれぞれいろんな事情がありますから。
それに、流斗さんは流斗さんです。お父さんと流斗さんは別の人でしょ?
私が好きなのは流斗さんです。それは変わりません」
言い切った瞬間、自分の口から出た言葉にハッとした。
いま……自然に“好き”って言っちゃった。
たぶん、ちゃんと言葉にしたのは初めてかもしれない。
顔が熱くなるのを感じながら、そっと彼の表情をうかがう。
流斗さんは、驚いたように目をまんまるくして私を見ていた。
でもすぐに、その表情がふわりとほどけて、幸せそうな笑みに変わる。
「唯さんは、本当に素敵な方ですね。
あなたを好きになった僕は、間違ってなかった。
……ますます手放したくなくなってしまいました。
たとえ、親友がライバルだとしても」
そう言うと、彼は私をふわりと抱きしめた。
腕が回される瞬間、息が止まりそうになる。
優しくて、でも決して逃がさないような、強さのある抱擁。
そのぬくもりの中、彼の想いがまっすぐに流れ込んでくるようで。
ああ、どうしよう……。
ドキドキする。
私、流斗さんのこと。
流斗さんが、そっと私の顔を覗き込む。
射抜くような眼差しに、心を捉えられ、動けない。
そして、ゆっくりと顔が近づいてきて――
え、これって、これって……。
鼓動が激しく脈打つ。
そのとき、彼の目が大きく見開かれた。
「あ……」
その表情でわかる。
また、優になってしまったんだ、と。
なんでいつもこうなるの~。
