すぐ近くのベンチに腰掛け、三人でクレープを頬張る。

 美味しい!
 クリームとフルーツの絶妙なハーモニー。
 口いっぱいの幸せに、思わず頬が緩む。

 夢中で食べ進め、最後の締めがやってくる。
 私は残しておいた、おまけの大きなイチゴにかぶりついた。

「でけえ口……」

 呆れ顔の兄が、ぼそっとツッコミを入れてくる。

 また余計な一言を!
 じろっと兄を睨みつけた。

 ごくんとイチゴを飲み込んだ、その瞬間だった。

 ビリリ――ッと体に電流が走る。

「えっ!」

 私は驚きの声をあげた。

「どうした?」

「大丈夫ですか?」

 兄と流斗さんが、心配そうに私を見つめる。

 でも、電流の感覚はほんの一瞬。
 その後は何事もなく、体に変わった様子はなかった。

 一体、何だったんだろう……。

 呆然とする私を、二人はどこか探るような視線で見つめてくる。
 心配かけたくなくて、小さく笑ってごまかした。

「だ、大丈夫。なんか、一瞬ビリッとした気がしただけ」

「クレープに変なもんでも入ってたんじゃねえか?」

 兄がいつものように冗談めかして笑う。

「やめてよ、変なこと言わないで!」

「冗談だって。そんなことあるわけねーだろ」

 ククッと軽く笑いながら、兄は何でもないようにクレープを頬張った。

 ほんとにもう。いっつもこれだ。
 こっちは真剣なのに、兄は平然としてて。

 ちらりと横を見ると、いつも通りの兄がいて。
 そんな変わらない姿にほっとした。

 何が起きても大丈夫って思えるから不思議。

 ――そのあとは特に変わったこともなく。
 クレープを食べ終えた私たちは、公園を後にした。



 家に帰った私は、いつも通りに夕飯を食べ、お風呂に入った。

 いつも通り。
 なんでもない、普通の日常。


 そして、とうとう私はあの瞬間(変身)を迎えることとなる。


 お風呂上がり、兄とのふとした接触。
 胸が高鳴り、ドキドキが最高潮に達したその瞬間――

 ――私は、男になってしまった。