「その辺にしておきましょう」
鋭く落ち着いた声が、場の空気を一変させた。
この声は……。
顔を上げると、そこには流斗さんがいた。
伸ばされた加奈さんの腕を、彼が静かに、しかし力強く掴んでいる。
普段は穏やかな笑顔を浮かべる彼が、今は険しい表情で加奈さんを睨みつけていた。
その瞳には、抑えきれない怒りの色がにじんでいる。
「可愛い女の子同士の喧嘩なんて、見るに耐えませんよ」
そう言って微笑んだものの、その笑みの奥には怒りの熱がまだはっきりと残っていた。
「……っ、なによ。もしかして、仕組んだの?」
加奈さんが私を見て、悔しそうに唇を噛む。
へ? 何それ……いったい彼女は何を言ってるの?
私は目をぱちぱちと瞬かせるしかなかった。
すると彼女は、ふんっと顔を背ける。
「わかったわよ。もういい!
でも、このこと咲夜くんに言ったら許さないから。
一生恨んでやる……つきまとってやるんだから!」
捨て台詞を残し、加奈さんは踵を返して駆け出した。
その背中は、見る間に遠ざかっていく。
ほっとすると同時に、体から力が抜ける。
足に力が入らず、その場に立ち尽くした。
