義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます


 たどり着いたのは、校舎裏。
 人の気配はなく、辺りはしんと静まり返っていた。

 それもそのはず。
 ここは体育祭の喧騒から離れた、校舎の裏手にある奥まった場所。

 コンクリートの壁とフェンスに挟まれた通路には日差しも届かず、じめじめとした空気が肌にまとわりついてくる。
 少し息苦しく感じるような、そんな場所だった。

 こんなところで、いったい何を話すつもりなんだろう。

 向かい合った加奈さんの表情をそっとうかがう。
 視線が合うと、彼女はにこりと笑った。

「ふふっ、唯さんって可愛いのね。
 咲夜くんが大切に思うのも、無理ないわ」

 やっぱり、兄の話か。
 なんとなくそう思ってた。

「兄妹仲がよくて、羨ましいわ。
 でも……最近は私が咲夜くんを取っちゃって、ごめんなさいね?
 なんだか彼、私と一緒にいるとすごく楽しそうなの。とても積極的で……それがちょっと可愛くて」

 余裕たっぷりに微笑む加奈さん。
 その笑みは、どこか嫌な感じがした。
 人を不快にさせるような、挑発めいた笑み。

 いったい何が言いたいのだろう。
 ただ、私に自慢したいだけ? それとも――

「そういえば、最近どう? 咲夜くんとは相変わらず仲いいの?」

 ふいにそう訊かれ、うっと言葉に詰まる。

 ここ最近、私たちはまともに話せていない。兄には避けられてばかりだった。

「ええ、まあ……」

 本当のことなんて、言えるはずもなく。
 私は笑ってごまかした。