義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます


 食後、私たちは残り時間をどう過ごすか相談していた。

「ちょっと、お手洗いに行ってきますね」

 そう言うと、流斗さんは立ちあがり歩き出す。
 私はその背中を、なんとなく目で追っていた。

 すると、蘭がぽつりとつぶやく。

「流斗さん、なんか……可哀そう」

「は? 何よ、いきなり」

 眉をひそめると、蘭は目を逸らして空を見上げた。

「……ううん、なんでもない」

 その曖昧な態度に、私は頬をふくらませる。

 と、不意に背後で足音が止まった気配がした。

「ねえ、唯さん」

 振り返ると、そこには加奈さんが立っていた。

「加奈さん……!? どうしたんですか?」

 まじまじと見つめる私に、加奈さんが笑顔を向ける。

「ちょっと、二人きりでお話したくて」

 にこりと微笑むその顔は、普段通りの可愛らしい笑顔だったけど、どこか張り詰めた空気を感じた。

 いったい何の話だろう?
 あまりいい話ではないような気がするけど……断る理由もないし。

「わかりました。蘭、ここで待ってて。すぐ戻るから」

 蘭に視線を向けると、彼女は困ったような顔をして、ぶんぶんと首を横に振った。

 どうしたんだろう?
 彼女の反応に、首を傾げる。

 蘭が私の腕をそっと掴んできた。

「唯……」

 その目が、何かを必死に訴えていた。
 “行っちゃダメ”――まるでそう言っているみたい。

 でも、加奈さんの手前、声には出さない。

「大丈夫。すぐ戻るから」

 私は優しく微笑みながら、蘭の手にそっと触れた。
 彼女はしばらく私を見つめたあと、あきらめたように手を離す。

 いったい、何の話なのか。
 加奈さんの醸し出すオーラから、あまりいい予感はしないけど……しかたない。

 密かに気合を入れ直した私は、加奈さんに導かれるまま歩き出した。

 ――この先に、何が待っているのかも知らずに。