帰り道の途中に、小さな公園がある。

 いつも立ち寄るわけではないけれど、その日はたまたま兄が「寄っていこうぜ」と言い出したので、私たちはそのまま公園へ向かった。

 近づくと、なにやら賑やかな気配がする。
 視線を向けると、軽く人だかりができていた。

 その中心には、白いキッチンカー。
 クレープ屋だった。

 こんなところに出店とは珍しい。
 ふと甘い香りが鼻をくすぐる。

 キッチンカーのそばに貼られたカラフルなメニュー表には、「いちごチョコ」「バナナカスタード」などの魅力的な名前が並んでいる。

「へえ、珍しいな」

 兄の声にうなずきながら、私たちは自然とクレープ屋の方へ吸い寄せられていった。

「そこのお嬢さん、可愛いね。どうだい? クレープでも」

 店員のお兄さんが、にこやかに声をかけてきた。

 “可愛い”なんて言われて、私は思わず反応してしまう。
 さっき兄に「可愛くねえな」って言われたばかりだったから、余計に心に響いたのだ。

 私は店の前で足を止める。

「クレープ、食べたい……」

 ぽつりとつぶやくと、すかさず兄が反応した。

「じゃ、俺が奢ってやるよ。一個貸しな」

 勝手に貸しを作らないでほしいんだけど……まあ、ここは甘えるしかない。
 だって私、今日はお金持ってないし。

 結局、兄のおごりでクレープを手に入れることができた。

 貸しを作られたのは悔しいけど、まあいいか。

「はい、どうぞ。お嬢さん可愛いから、これおまけ」

 店員はそう言いながら、大きなイチゴをクレープの真ん中にドンっと乗せてくれた。
 そのイチゴは、とても大きくて艶やかで、美味しそうだった。どこか、妙に目を引く存在感がある。

「わあ、ありがとう!」

 私は嬉しくて、店員に笑顔を返す。
 店員もニコッと微笑み返してくれた。なのに、なぜだろう。

 胸の奥がざわついた。

 なんとも言えない、薄くまとわりつくような違和感。
 ただの営業スマイル。そう思えば、気にするほどのことじゃないのかもしれない。

 私はその違和感を、気のせいだと無理やり押し込めた。

 まさか、この出来事が――あんな事態を呼ぶことになるなんて。
 夢にも思わないじゃない……。