義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます


 私たちは、勢いそのままにゴールテープを駆け抜けた。

「はあ……はあっ……やった! やったな、唯!」

 兄は膝に手をつき、肩を大きく上下させながら息を整える。
 そして顔を上げたその表情は、なんとも嬉しそうで。

 一瞬、見入ってしまい、私は照れ隠しのように小さく頷き返した。

 ふと目を向けると、流斗さんがひとりでゴールテープをくぐる姿が見えた。
 誰の手も引かず、ただ静かに走り終え、その場に立ち尽くしている。

 その姿が、やけに寂しそうで、胸がぎゅっと締めつけられる。

 やがて彼は無言のままこちらへ歩み寄ってきた。
 兄を睨みつけるような表情のまま、私の目の前に立ち止まると、黙って一枚の紙を差し出してくる。

 そこには、こう書かれていた。

『一番大切なもの』

「え……」

 その瞬間、ようやく私は気づいた。

 この借り物競争の“借り物”って、そういう意味だったの?

「……僕を選んでほしかったな」

 ぽつりと呟くと、流斗さんは寂しげに背を向け、静かに歩き出す。

「あっ」

 何か言わなきゃ。そう思うのに、声にならない。
 だって、今さら何て言えばいいの?

 その背中を、ただ黙って見送ることしかできなかった。

 そして、ゆっくりと兄の方へ視線を向ける。

 “借り物”が「一番大切なもの」で、兄が私を連れて行ったということは――。
 そういうことなの?

「ちっ……そんな顔で見つめんなって。照れるだろ」

 視線に耐えられないのか、兄はぶっきらぼうにそっぽを向いた。

「ま、俺を選んだことは褒めてやるよ」

 その頬は、ほんのりと赤く染まっている。

 本当に……私のこと大切に思ってくれてるの?
 信じていいのかな。ちょっとだけ、己惚れてもいいのかな。

 嬉しさと驚きが入り混じって、言葉にならない。

 兄から目を離すことができなかった。