「ど、どこ?」
「あそこ」
蘭は少し複雑そうな表情で指をさす。
その視線の先を追うと――そこに、兄の姿があった。
ずっと探していた姿に胸が高鳴る。
けれど次の瞬間、ズキンと痛みが走った。
兄の隣に寄り添っていたのは、加奈さんだった。
加奈さんは兄にぴたりとくっつき、愛おしげな眼差しを向けている。
兄はというと、キョロキョロと何かを探しているようだった。
ふと視線が合う。
一瞬だけ驚いたような表情を見せた兄は、すぐに私から目を逸らした。
そう――
兄は、まだ私を避けている。
もう、昔みたいには戻れないのかな……。
「唯さん」
そっと肩に手が置かれる。
流斗さんが、落ち込む私を優しく見つめていた。
「この体育祭が終われば、きっと答えが出ますよ。
だから、もう少しだけ、我慢です」
何が言いたいのか、わからなかった。
私は彼をじっと見つめ返す。
流斗さんは微笑んだまま、視線を兄の方へ向けた。
その目は、真剣そのものだった。
同じく兄も、流斗さんに目を向けていた。
二人の視線がぶつかる。
何やらその間には火花が見える……ような。
その空気に気づいたのか、隣の蘭がぽつりとつぶやいた。
「おぉ……何かが始まりそうな予感」
