そして、体育祭当日。

 朝から校内はそわそわとした空気に包まれていた。
 今日に向けて準備してきた生徒たちは、どこか浮き足立っているようで、
 あちこちでにぎやかな声が響いている。

 イベントって、不思議とワクワクしてしまう。
 その空気に影響されたのか、どこか落ち着かない気持ちで教室を見まわした。

 ホームルームが終わった生徒たちは、次々にグラウンドへと移動し始める。
 私もそろそろ行かなくちゃ――そう思って、蘭を探した。

 でも、彼女の姿が見当たらない。

「……どこ行ったのかな?」

 教室を見渡していると、入り口から蘭が駆け込んできた。

「蘭! どこ行ってたの? もうそろそろグラウンドに向かうよ」

「うん……」

 なんだか元気がない。
 心配になって顔を覗き込むと、彼女はほんの少し目を伏せて、ぽつりと呟いた。

「唯、優くんがいない」

 その一言に、息が詰まった。

 そう言われると、困る。
 だって、唯の姿で私がここにいるということは……優はいないってことになる。
 でも、そんなこと、蘭が知るはずもない。

「優はあんまり、こういうイベント得意じゃないみたい。今日は来ないと思う」

 なんとか誤魔化そうと笑って見せた。

「そうなんだ。残念だな」

 しょんぼりと肩を落とす蘭の姿に、罪悪感が喉にひっかかる。

「でも、いっか。唯のこと全力で応援するわ! それに、咲夜さんと流斗さんも!」

 急に明るさを取り戻した蘭に、思わず苦笑いする。

 立ち直り早いなぁ……。
 まあ、そういうところが蘭らしいんだけど。

「さ、行こう!」

「うん!」

 私たちは一緒に教室を出て、グラウンドへと向かった。