俺の父親は、最低な男だった。

 母に暴力を振るい、酒に溺れては喚き散らす。
 ろくに働きもせず、母の金で暮らしていた。

 もちろん、父親らしいことなんて一度もしてもらった記憶はない。

 そんな父が、ある日事故を起こした。
 酒を飲んだまま車を運転して――飲酒運転だった。

 そして、その事故の相手が、唯の母親だった。

 二人とも、その場で即死だったらしい。

 幼い俺は、当時、そのことをよく理解できていなかった。
 ただ、泣きながら毎日のように頭を下げに行く母の姿だけが、強く焼きついている。

 けれど、不思議なことに、相手の家族は母を責めなかった。
 むしろ、やつれきった母を気遣ってくれたという。

 それが、唯の父親だった。

 運命ってやつは、残酷すぎる。

 けれどその後、唯の父と俺の母は何度か顔を合わせるうちに、少しずつ距離を縮めていった。

 唯の父は、母が加害者の家族であることを承知のうえで、
 母の中にある優しさや、真っすぐさを見抜いてくれたんだ……。

 母は、そんな彼の存在に少しずつ救われ、やがて惹かれていった。