「僕が勝ったら、唯さんとのことを認めてもらう」

 その名前に、はっとする。

「唯……? おまえ、何を言って――
 認めるも何も、もう認めてるだろ」

 視線が彷徨った。
 まっすぐ見返すことができない。

「認めたふりしてるのはわかってる。本当は、まだ認められてないくせに」

「……なっ……」

 流斗を睨む。
 だが、その目は怯むことなく、真っすぐ俺を射抜いてくる。

「君の気持ちは、だいたい察してる。
 唯さんのことを想って、自分なりに距離を取ってるつもりなんだろうけど……
 その中途半端な態度が、彼女を苦しめてるんだ」

 その言葉が、鋭く胸に突き刺さった。
 ――わかってる。わかってるよ。

「僕は、そんな彼女を放っておけない。ここではっきりさせてほしい」

 まっすぐな声が、熱を帯びて胸に響く。
 抑えていた悔しさが、じわじわと滲み出してきた。

「……くっ、じゃあおまえが幸せにしてやれよ」

 視線を逸らすと、流斗の声が追いかけてくる。

「怖いんでしょ? 唯さんに拒絶されるのが」

 淡々とした口調。けれど、棘を感じる。

「っ……」

「兄妹だから? それとも――お父さんのことが引っかかってるのかな?」

 その一言で、頭の中が真っ白になる。
 かあっと血が上り、拳を握りしめた。

「おまえっ……! その話はするな。
 流斗には、俺の気持ちはわからないっ!」

 息が乱れ、胸が激しく上下する。
 そんな俺とは対照的に、流斗は冷静そのものだった。