兄は私たちに気づくと、ふっと表情を緩め、まっすぐこちらへ歩いてきた。

「唯、遅ぇよ。待ちくたびれるだろ」

 そのまま私の頭に手を伸ばし、ガシガシと遠慮なく撫でてくる。

「ちょ、やめてよ……!」

 私は慌ててぐしゃぐしゃになった髪を直しながら、じろりと兄をにらんだ。

「別に頼んでない」

 つい不機嫌な態度を取ってしまう。
 そう、いつも勝手に兄が待っているだけで、私が頼んだわけではない。

「可愛くねえな」

「どうせ可愛くないわよ」

 ぷいっと顔を背けると――

「唯さんは可愛いですよ」

 優しい声音とともに、端正な顔がぐっと私を覗き込んできた。

「る、流斗さんっ!」

 突然の接近に、私は思わず一歩後ずさる。

 びっくりした……そうだ。兄がいるなら、流斗さんもそばにいるはず。
 二人はいつもセットみたいに行動してるから。
 まるで、私と蘭みたいに。