それに、彼女は私の親友だ。
 好きな人のことで気まずくなるなんて、絶対に避けたい。

 まあ、私のこの気持ちは誰にも言っていない。
 蘭だって、気づいていないはず。

 ……でも、だからこそ願ってしまう。
 早く、蘭にも理想の王子様が現れてくれますように、って。

 そんな願いをそっと胸の奥にしまい込み、私はいつも通り、蘭とおしゃべりに興じる。

 予鈴が鳴るまで、ふたりで他愛のない漫画の話に花を咲かせた。

 

「あーあ、疲れたあ」

 放課後。教室を出た私は、廊下を歩きながら大きく伸びをして、ふわっとあくびをこぼした。
 その隣で、蘭がくすっと笑う。

「ふふっ。唯ったら、そんなに勉強頑張ってないでしょ?」

 い、痛いところを突いてくる。
 爽やかな笑みで軽くジャブを入れられた私は、しゅんと肩を落とした。

 しょんぼりしたまま校舎を出ると、隣でパッと声が弾んだ。

「――あっ、咲夜さんよ、唯っ!」

 校門の前に立つ兄を見つけて、蘭ははしゃいだ声をあげる。
 その目はきらきらと輝いていた。

 さすが、こんな遠くから見つけるなんて。
 私は呆れたように横目で彼女を見やる。

 そのまま引っ張られるようにして、兄のもとへ駆け寄っていった。