「私の心には、まだ……兄がいます。
ずっと想い続けてきたから、そんな簡単には忘れられなくて。
忘れてからだなんて言ってたら、いつになるかわからないし……だから……」
言いかけて、そこで言葉を飲み込む。
怖さとためらいで胸がいっぱいになる。
「だから?」
流斗さんがやわらかな声で促してくれる。
その優しさに背中を押されるように、私は覚悟を決めた。
「都合がいいって思うかもしれませんが。
兄のことが好きな私と……付き合ってもらえませんか?」
怖くて顔を上げられない。
けれど、必死に言葉を紡ぐ。
「これから流斗さんのことを、もっと知っていきたいんです。
ゆっくりでも、好きになれたらって……そう思っています。
一緒にいればきっと好きになれる。ううん、確証なんてないけど。
でも、流斗さんのことは好きだし。一緒にいたいって気持ちは、本当です」
息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
心臓が早鐘のように鳴っている。
「もちろん……お兄ちゃんのことも、好きですけど。
でも、流斗さんのことだって、好きで。だから、その……」
胸が熱くなる。
恥ずかしさと不安で押しつぶされそう。
こんなに自分勝手で、調子のいいことばかり言って。
流斗さんの気持ちを弄んで、利用しているみたいで――
やっぱり、私なんて。
「唯さん!」
突然、流斗さんが立ち上がり、大きな声をあげた。
驚いて顔を向ける。
ぐいっと距離を詰められ、
その勢いのまま、手をぎゅっと握られた。
「本当ですか!?」
満面の笑みが目の前に広がる。
こんなふうに感情をあらわにする流斗さんは、見たことがなかった。
「いいですよ、咲夜のことを忘れられなくても。
僕と付き合ってくれるだけで、夢のようです。だって、何年もあなたに片思いしていたんですから!
振り向いてもらえただけでも、幸せです」
席を回り込んできた流斗さんが、私の隣に腰掛ける。
至近距離から見つめられ、胸の高鳴りが止まらない。
「これから僕のことを好きになってくれれば、それで十分です。
ゆっくりでいい。いつかきっと――咲夜を超えてみせます」
