すると、兄の体温がふっと遠ざかる。
おそるおそる目を開けると、もうそこに兄の顔はなかった。
一人で仰向けになっている自分に気づき、慌てて上体を起こす。
ちらりと横を見ると、兄はソファーに腰掛け、俯いたまま顔を背けていた。
その頬が、ほんのり赤い。
……何も言わない。
息が詰まりそうな沈黙が、じわじわと続いた。
なんで何も言わないの?
き、気まずいじゃん。
「それで、どうなんだ? さっきの答えは」
兄がぽつりとつぶやく。
いつもよりそっけない声。
なんで急にそんな不機嫌になるの?
戸惑いながら、私は答えた。
「えーと……流斗さんのことは、好きだよ。
ずっと友達としてだと思ってたけど、告白されてから男の人として意識するようになった。
まだはっきりわからないけど、ちゃんと付き合ってみようかなって思ってる」
これは、嘘じゃない。
流斗さんのこと、好きになれたらいいって本気で思ってる。
兄への気持ちを断ち切るためにも、そうするべきだと。
「――そうか。わかった」
兄は静かにうなずいた。
「唯が好きなんだったら、俺は応援するよ。
流斗はいい奴だ。きっとおまえを大切にして、幸せにしてくれる。
なんたって俺の親友だからな。……おまえも流斗のこと、大事にしてやれよ」
兄の言葉が胸に突き刺さる。
そっと微笑むその優しさが、せつなく胸をしめつけた。
応援なんて、してほしくなかった。
やっぱり、お兄ちゃんにとって私は“妹”でしかないんだ。
胸がぎゅっと痛む。
滲んだ涙を隠すように、顔を背けた。
「うん、そういうこと。
じゃあ、もう寝るね。おやすみ!」
それだけ言うのがせいいっぱい。兄の顔もまともに見られない。
今度こそ引き止められないように――
私は逃げるように部屋を飛び出した。
