しばらく家族団らんを楽しんだあと、父と母が立ち上がった。
「じゃあ、僕たちはもうそろそろ寝ようかな。
咲夜くんも唯も、早く寝なさい」
「おやすみ、唯ちゃん、咲夜」
父は穏やかな笑みを浮かべ、軽く手を振って部屋を出ていく。
母は私の頭を優しく撫で、父のあとを追った。
「ほんと、二人とも仲いいよね」
私がつぶやくと、兄は短く「そうだな……」とだけ返した。
二人きりになった部屋に、ふっと緊張感が漂う。
そう感じているのは、きっと私だけ。
「わ、私ももう寝ようかな」
立ち上がろうとしたそのとき――
「なあ、唯」
兄が私の腕を掴み、そのままソファーへと引き戻した。
顔を上げた瞬間、視界いっぱいに兄の真剣な表情が迫る。
心臓が跳ねるように脈打つ。
やばい、また変身しそう。
「ど、どうしたの?」
焦って距離を取ろうとするけれど、すぐさま兄が間合いを詰めてくる。
近い、近いってばっ!
至近距離で見つめられ、鼓動はますます速くなる。
「正直に答えてほしい」
兄の瞳が揺れていた。
迷っているような、恐れているような。
「唯は、流斗のことが好きか?
兄の親友とか、友達としてじゃなく、男として……」
その声はどこか掠れていて、いつもの余裕がない。
すぐ近くに感じる吐息も、その眼差しも、すべてが私をかき乱していく。
どうしよう、どう答えればいいの?
流斗さんのことは好き。
でも、それが恋愛感情なのかはまだわからない。
付き合い始めたのだって、お兄ちゃんへの気持ちを忘れるため。
そんな本当のこと、言えるはずもない。
考えあぐねている間に、兄はさらに近づいてくる。
「え? あ、ちょっと、まっ……」
慌てて後ろへ逃れようとした瞬間、ソファーに背中が沈み込んだ。
次の刹那、兄が覆いかぶさってくる。
近すぎる距離で視線が絡み合い、心臓がとんでもない速さで鳴り響く。
変身しちゃう――
ぎゅっと目をつぶり、必死に耐えた。
