唯へと戻った私は、まだ足元に力が入らず、兄の腕に支えられながら家へ向かった。

 玄関に入ると、兄が私をそっと座らせ、自分の靴を脱ぎながら声を張る。

「ただいま!」

 その声に反応して、父と母がリビングから出てきた。

「あら、お帰り~」

「あれ? 唯と咲夜くん、一緒だったの? 確か別々に出て行ったような」

 いつも通りにこにこと可愛い笑顔の母と、首を傾げる父。
 兄は面倒くさそうにため息をつき、視線を母に向けた。

「ああ、別にいいだろ。
 それより唯の奴、一度優になって、さっき戻ったばかりなんだ。疲れてるからお風呂沸かして」

「え! そうなの? ちょっと待っててね」

 母が慌ててお風呂場に向かう。

「それは大変だったねぇ。唯、大丈夫だったか」

 父が心配そうに私の肩を抱き、覗き込んでくる。

「うん……。お兄ちゃんがそばにいてくれたから」

 私は兄を見つめた。
 兄は嬉しそうに、にこっと笑う。

「さ、お風呂が沸くまでホットミルクでも飲んでろよ。俺が用意するから」

 そう言って、兄はキッチンへと消えていく。

「うんうん、本当にいいお兄ちゃんだねぇ、咲夜くんは。よかったな、唯」

 父が満足そうに微笑む。

「うん……そうだね」

 私も笑顔を返すけれど、心の奥は複雑だった。

 いいお兄ちゃん……か。