そしてもうひとつ。

 兄は、私を妹としてしか見ていないんだってこと。

 もし兄が私を特別に思っているなら、流斗さんの気持ちを知ったときに嫉妬してもおかしくない。
 そんな素振りは今までなかった。

 ……そして今日も、本当はちょっと期待していた。

 もしかして嫉妬してくれるかなって。
 でも結局、そんな素振りはなかった。

 加奈さんがいたせいで、よくわからなかったのかもしれないけど、
 まあ、私も途中から優になっちゃったしね。

「なあ、それで、おまえはどうするんだよ。
 本気で流斗と付き合うつもりなのか? ――あいつのこと、好きなのか」

 兄は歩みを止め、じっと私を見据える。
 その真剣な顔に、胸がざわついた。

「なっ、まだ決めてない。
 急な告白だったから。私自身びっくりして……そんなすぐに答えは出せないよ」

「ってことは、流斗のこと、いいなって思ってるんだな?
 正式に付き合う気があるってことだろ」

 兄の視線が鋭くなり、ぐっと距離を詰められる。

「ちょ、まって。そんなこと一言も……っ!」

 言い返そうとした瞬間、胸がぎゅっと締めつけられるように苦しくなった。

「おい!」

 苦しさに、足元が揺らぐ。
 倒れかけた私を、兄が慌てて支えた。

「だ、大丈夫か」

「う……っ。はっ、はぁ」

 激しく脈打つ心臓。
 体中を熱い血が駆け巡り、胸の奥がじんと焼けつくようだ。

 ドクドクドクッ……ドクッ!

 大きく跳ねる鼓動が、耳の奥まで響く。
 それでも、その場で必死に踏みとどまった。

「んっ……」

 耐えているうちに、鼓動が少しずつ静まっていく。

「はぁ、はぁ……はぁ」

 呼吸も徐々に落ち着いてきたころ、兄が私をふわりと抱きしめた。

「唯……よかった」

 その温もりに包まれた瞬間、
 不安が一気に溶け、じんわりと満たされていく。

 やっぱり、私……お兄ちゃんのこと――。

 兄の胸に顔を寄せ、その温もりにしばらく身を委ねた。