「あ、あの、唯さんは急に体調を崩されて、急いで帰られました。
私も付き添おうとしたのですが、迷惑をかけたくないと固く断られまして……。
僕もひとりで帰すのは心配だったんですが」
流斗さんがぎこちなく説明する。
どこかこじつけたような言い訳に、たどたどしさがにじんでいた。
「ふーん。で、この従弟さんは、なぜここに?」
当然の疑問だ。
私は必死で言い訳を考える。
「俺が呼んだんだ! みんなで遊んだ方が楽しいし。
俺と唯がいるのに、こいつ呼ばないのも可哀そうだろ? な?」
兄がそう言って笑う。
絶対に今思いついた、その場しのぎの言い訳だ。
果たして、加奈さんは納得してくれるだろうか。
私たちは息を呑んで、加奈さんの反応を待つ。
「――そうですか! まあ、唯さんも帰られたことだし、ちょうどよかった。
ここからはこの四人で楽しみましょう。ええと、あなた、お名前は?」
あっさりと兄の言い訳を信じた加奈さん。
なんだか嬉しそうなのは、なぜ?
……もしかして、唯がいなくなったことを喜んでるのかな。
そうだとしたら、ちょっと悲しい。
「あ、僕は南優って言います。
咲夜と唯の従弟です。よろしくお願いします」
私が微笑むと、加奈さんもにこやかに笑って手を差し出す。
その手を握ると、彼女はどこか満足げに頷き、ぱっと明るい笑顔になった。
「じゃあ、行きましょうか」
加奈さんはそう言うと、軽やかな足取りで先頭を歩き出した。
その後ろで、兄と流斗さんが何やらこそこそと話している。
きっと流斗さんが、ことの成り行きを説明してくれているのだろう。
とりあえず、なんとか切り抜けられたことにほっと胸をなで下ろす。
けれど――加奈さんの反応が少し気になる。
やっぱり、私って嫌われてるのかな……。
小さくため息をつき、肩が自然と落ちる。
みんなの背中を追うように、どこか晴れない気持ちのまま歩き出した。
