「えっと、とりあえず、唯さん……じゃない優くんは先に帰りましょう。
僕がふたりに説明しておきます。唯さんは気分が悪くなって先に帰った、って」
「それで大丈夫でしょうか?
兄はあとで事情を説明すれば済むけど……驚いて、加奈さんの前で変なことを口走ったりしないかな」
「確かに……」
こうやって言われてしまうお兄ちゃんって、信頼ないなあ。
なんて二人で頭を悩ませていると、聞き慣れた呑気な声が聞こえてきた。
「唯、流斗、どこいった? おーい!」
観覧車を降りた兄が、私たちを探している。
「ど、どうしましょう!」
焦ってあたふたする私の手を、流斗さんがぎゅっと握る。
驚いて顔を上げると、彼はまっすぐ私を見つめ返してきた。
「とりあえず、ふたりから離れよう」
いつも冷静なはずの流斗さんが、珍しく焦った顔をしていた。
そのまま私は手を引かれ、駆け出す。
「きゃっ」
走り出した途端、誰かとぶつかった。
「ご、ごめんなさい!」
「いたたっ」
ぶつかった相手は、よりによって――加奈さんだった!
「あら? あなたどこかで……って、流斗さんじゃありませんか」
加奈さんは流斗さんを見るなり、目を丸くする。
ど、どうしよう。
こんなタイミングで加奈さんに見つかるなんて……。
どうしたらいいかわからず、視線を落とした。
「あ、いたいた、おーい!」
遠くから兄の声が聞こえ、急いでこちらへ駆け寄ってくる。
「って、あ!」
兄の目が大きく見開かれ、声が弾けた。
皆の視線が集まる。
兄は少し気まずそうに微笑むと、黙り込んでしまう。
重い沈黙が漂う中、最初に口を開いたのは加奈さんだった。
「ねえ、あなた、どこかで会ったことない?」
じっと見つめられ、私は視線を泳がせる。
