「おい、唯。聞いてんのか? 今日、おまえのクラスで小テストあるらしいぞ」
「ええっ!? 何それ、聞いてない!」
私が慌てると、兄と流斗さんが含み笑いを浮かべた。
「これ、流斗情報な」
「内緒ですよ、唯さんだけに特別です」
兄がイタズラっぽく笑い、流斗さんは人差し指を立てる。
えっ、どこからそんな情報を……。
いやいや、今さら言われても遅いんだけど!
私は頭を抱えて考え込む。
「嘘だよ」
兄がばっさりと言い放つ。
「そんなのわかるわけないだろ? な、流斗」
「ええ、さすがにそこまでは」
「唯はほんと騙されやすいよな」
兄がニヤリと笑い、流斗さんもにっこり微笑む。
まただ……また、ふたりで私をからかって。
何が面白いのよ!
「ひどい……本気で悩んじゃったじゃない!」
ぷくっと頬を膨らませ、ふたりを睨みつける。
「唯さん、ごめんなさい。僕は咲夜に頼まれただけです」
「あ! てめぇ、人のせいにすんなよ。おまえも楽しんでたろ」
「そうでしたっけ?」
ふたりがじゃれ合う姿を見ていると、怒る気もどこかへ消えていく。
自然と、私の顔にも笑みが浮かんでいた。
「もう、二人とも。行くよ、遅刻しちゃうでしょ」
私はふたりの背中を押す。
「そうだな、行くか」
「ええ」
二人は私に微笑み、お互いを見つめ合って笑った。
ほんと、仲がいいんだから。
いつも喧嘩しているように見えるけれど、それは二人なりのじゃれ合いなのだ。
ふいに兄が、さりげなく私の肩を抱いて歩き出す。
……トクン。
心臓が跳ねた。
ほんと、こういうの……やめてほしい。
ずるいなあ。
嬉しさと切なさが入り混じるこの気持ち。
私はうつむいて歩きながら、兄の何気ない行動に胸を痛めるのだった。
