叔母さんの家から最寄り駅までは10分で着く。
電車に15分乗って、10分ほど歩いたら学校だ。
家から近い高校もあったけれど、あえて乗り換えしないといけない場所を選んだ。
「ご入学、おめでとうございまーす」
学校に着くと、昇降口の前でクラス表が配られていた。
えーと、宮本……宮本……あった。
どうやら、1年2組らしい。
周りには、同じ中学だったのか、数人で集まって移動する人たちで溢れている。
教室、どこだろ。
壁に地図があるのを見つけて歩き出したとき。
「ねー、何組?」
誰かに声をかけられた。
振り返ると、髪を明るく染めたショートカットの女の子が立っていた。
「え、あ、2組……」
「一緒じゃん!教室まで一緒に行こ〜」
「でも……」
「あたし藤田茜(ふじたあかね)!あなたは?」
「宮本……です」
「下の名前は?……あ、いいや、あす…明日菜で合ってる?明日菜って呼ぶね!」
手元の紙に目を落とすとあたしの名前を見つけたようだ。
そのまま強引に腕を組まれる。
ま、いいか……
教室に着いたら、話しかける相手は他にもいるだろうし。
入学式が終って教室に着いてからは、質問攻めだった。
「どこ中?」
「遠くてわからないと思う……」
「兄弟いる?あたしは妹がいるよ」
「いないよ」
「好きな食べ物はー?」
「うーん、決められないなあ」
仲良くならないようにしなきゃ。
「も〜明日菜って秘密主義?」
「そうかな?」
「ま、いいけどね!」
冷たい答え方だったかな、と思ったけど
こんなのは全然気にしないタイプのようだ。
どっちでも、いいや。
もう、あんな思いはしたくない。
本当の友だちなんて、作らない。
"明日菜"
目を閉じると声が聞こえる。
優しくて、暖かい、太陽みたいな声。
もう、会えない声。
泣きそうになる。
ダメだ。こんなところで泣く訳にはいかない。
担任の三上先生が入ってくる。
「自己紹介するぞ〜」
藤田さんは別の友だちと話しているようだ。
そんな様子を横目で見ながら、あたしはそっと教室を抜け出した。
