【三年一組】
　四月の爽やかな風が、カーテンを揺らしている。
ここ華澄ケ浜中学は、校庭の向こうに海が広がっている。
海からの風がとても心地良い。

　「ハーイ、みんなおはよう！」
　赤木先生の元気な声が教室中に響いた。
　「おはようございます！」
　みんな一斉に席に着く。
　「今日は転校生を紹介するぞ！」
　その一言で、教室は一気にざわめいた。

　「桜木さん、入ってください。」
　「はい。」

　深呼吸をひとつして、私は教室の中へ足を踏み入れる。
　いっせいに集まる視線に、胸がドキンと鳴る。

　「こちらは桜木美桜さん。お父さんの仕事の都合で引っ越してきたそうだ。自己紹介をどうぞ。」
　「はじめまして。桜木美桜と申します。昨日引っ越してきました。趣味はプロ野球観戦です。よろしくお願いします！」

　緊張しながら声を出すと、クラスの空気が少し和らいだ。
　
「おーい、桜木さん！」
　ひときわ大きな声が教室の奥から響く。
　きちんとセットされた前髪に、白い歯がやけに眩しい男の子。
　余裕な笑顔で、みんなの視線を一瞬でさらってしまう。

「どこのチーム推し？まさかフィークスじゃないよな？」

　からかうような調子なのに、不思議と嫌味がない。
彼の話に、教室が笑いに包まれる。

「フィークス、応援してます！」
　そう答えると、彼は目を輝かせて身を乗り出した。

「マジで？　俺も！いやぁ〜これは運命だな！今度一緒に観戦に行こうよ！」
　突然の誘いに、周りの子たちも思わず笑い出す。

その空気に割って入るように、赤木先生が話だす。
　「はい、フィークスの話はそこまでだ。桜木さんの席は……真ん中の一番後ろ。生徒会長、二階堂悠輝の隣だ。」