東京六本木に本社がある大きなイベント企画会社の若きエースである彼は社にいることがほとんどない。常に営業・打ち合わせ・設営・リハーサル・本番・撤収である。
見かけるたびにキラキラしている。清潔感あふれるカットをほどこした黒髪はつやつやしているし、嫌味のない値段のスーツと革靴をそつなく着こなす長身痩躯の体格。爪や手、肌や唇の手入れにも余念がない。ほんの少し上がった太眉の下にアーモンド型の愛嬌あふれる茶色の目がある。鼻に存在感があり唇はぽってりしている。右の口元にポツンとホクロがある。外回りが多いので常に焼きたてのパンみたいな肌の色をしている。絵に描いたような好青年は、

私とふたりで会うとき、オーラも気配も消える。

会社の受付にずっと座っている私同様、仕事のときはずっとキラキラな自分を演じていて、
一歩会社や仕事から離れるとたちまち気配を消す。誰もいませんけど? モードになる。すみっこが好き。ずっとおさまっていたい。

チューハイは焼酎とソーダ、または水割りがいちばんだ。自分で作れば良いもののこのお店のチューハイはなぜかとても美味しく感じるのだと彼は静かに力説する。常に海鮮を焼いたり煮たりするにおいにあふれているからか。「ハイよー!!」の勢いが良いからか。邦ロックが心地よいからか。
(私と呑むからか)

「チキンライスとだし巻きたまごください」
「華麗に無視された海鮮かわいそう」
「きみも何か追加しない?」
「んー、
私もチキンライスにしよ」
「結婚してくれないか」
「断る」