その頃になると会社での勤務にも慣れ、新人社員たちとも打ち解けていた。
まさか就活中にお祈りメールばかり貰っていた私が、こんなにも穏やかな社会人ライフを過ごせていると誰が思っただろう。
デスクで少し伸びをしていたらお昼の時間になっていた。
隣の席のミウナに私は声をかける。
「ミウナ、駅前に新しく出来たパスタ屋さんでランチしない?」
私がお腹を空かせながらそう言うとミウナは楽しそうな笑顔を浮かべる。
そしてその美しい顔の前でピッタリと両手を合わせてごめんねのポーズをした。
「ごめん、ユカ。今日は先約があるの。」
そう言うとミウナはコンパクトについたミラーでまつ毛が上がっているかをチェックしだした。
どうやらこの感じから想像するに、その先約というのはデートなのだろう。
私はニンマリと笑ってミウナに声をまたかける。
「ミウナ、さてはデートでしょ?」
私がそう聞くとミウナは図星だったようで肩をビクンと少し上下させる。
「驚いた。なんでわかるの!?ユカってエスパーだったっけ!?」
ミウナはコンパクトをパカパカさせながらその美しい顔を驚きの表情に染めていく。
そんな時、私はというと、美女はどんな表情をしていても美しいんだななんて間抜けなことを考えていた。
ハーフ美女のミウナは今日も昨日と変わらず、いつだって美しい。
「エスパーっていうより、ミウナの顔にデートって書いてあっただけだよ。」
「ええ!?私、そんなに嬉しそうな表情だった!?」
ミウナはコンパクトをまたパカッと開けてミラーをジッと見つめている。
「うん。ミウナってわかりやすいよね。ところでランチデートの相手は誰なの?」
私がそう聞くとミウナは少し緊張した表情を浮かべる。
「近くにある商社の人とだよ。」
ミウナはそう言った。
だけれども、そう言ったミウナはいつものミウナとは少し違かった。
どうやらあのハーフ美女のミウナでも商社マンとのデートは緊張するらしい。
いつもは自信満々なミウナだけれど、可愛いところもあるんだなと思った。
「ところでその商社マンとはどこで出会ったの?」
「先週行った合コンでだよ。」
「え!それってマキも行ってた?」
マキというのは桜が似合う同僚美女のことだ。
「うん。マキも近々、合コンで知り合った商社マンとデートするんじゃない?」
実を言うと先週、マキは合コンに行くからと気合を入れてエステに行っていた。
商社マンが相手の合コンならそれくらい気合をいれていくのがマキの考え方なのだろう。
そして美女2人にここまで気合を入れてくる商社マンの力にはびっくりさせられる。
「ランチデート楽しんできてね。」
私がそう言うとミウナは嬉しそうに頷いた。
その後、私は会社の1階にあるコンビニでペペロンチーノを買い、屋上へと向かう。
駅前に新しく出来たパスタ屋さんに行きたかったけれど、今日はミウナのために我慢だ。
私は屋上にあるベンチに座り、ペペロンチーノを1ススリしながら空を見上げた。
「ミウナ、ランチデート上手くいくと良いな。」
ペペロンチーノのしょっぱさが独り身にしみる。
こんなにも天気が良い日に1人で屋上ランチはさすがに寂しいものがあった。
「あ。飛行機だ。」
再度、見上げた空には飛行機が1つ飛んでいた。
あの飛行機にはCAさんが乗っていてパイロットもいる。
「ミウナが商社マンを狙うなら、私はパイロットでもいってみる?」
ペペロンチーノをススリながらそんなことを私は考えていた。
というかものすごくその時、気が抜けていたと思う。
それが良くなかった。
「奇遇だね。中村さん。」
声のした方向へ視線を向けると、そこには驚くべきことに社長がいた。
なぜ、どうして、こんな間抜けな表情を浮かべながらペペロンチーノをススッてる時に社長が来てしまうんだろう。
私は自分の頬が火照っていることを瞬時に悟る。
今頃、ミウナはオシャレなレストランで商社マンとランチしてるだろうに、この差はなんだろう。
そうやって私がゴチャゴチャと色々考えていると社長は空を指さした。
「お!飛行機だね。」
空を飛ぶ飛行機を指さす社長。
だけど、その表情は少し切なげだった。
気になった私は社長に質問をしてみる。
「社長、なにかありましたか?」
私がそう言うと社長は驚きの表情を浮かべる。
「驚いたな。どうしてわかるんだい?」
「社長が悲しそうな表情を浮かべてたからです…。」
私がそう言うと社長は笑いだす。
「参ったな。俺、子供の頃から表情に出やすいんだよね。」
そう笑う社長はいつもより幼さが見えてやっぱり弟っぽいなと思った。
弟っぽい、そう思った私は気になっていたことを切り出す。
「そうなんですね。そういえば社長にはお兄さんがいるんですよね?」
私がそう質問すると社長はまた少し切なげな表情を浮かべた。
「うん、いるよ。正しくはいた、だけどね。」
「いた?それってつまり…。」
飛行機の飛ぶ音が少し大きくなった気がした。
「うん。兄は少し前に亡くなってるんだ。」
「え…。」
意外な答えだった。
飲み会の席で話題になった社長の爆モテお兄さんが亡くなっていただなんて。
すると社長は淡々とお兄さんのことについて話し出す。
本当だったら次期社長はお兄さんだったこと、そのお兄さんは社長の何倍も人たらしでモテモテだったこと。
そして素晴らしい経営者としての素質があり、一生勝てない兄だということ。
ここまでだととても素晴らしい兄だ。
しかし、次の瞬間、私は自分の耳を疑った。
「そんな兄だったけど、兄は僕の彼女と浮気していたんだ。」
「え…。」
「前からわかっていたことだったんだ。俺の兄と彼女が浮気していたことは。」
「そうだったんですね…。」
「正直、俺は怒ればよかった。だけどどこかで兄には勝てないと思ってたし、スペック負けを認めて見て見ぬふりをしてたんだ。」
人たらしの社長の意外な弱気の一面に私はとても驚く。
その後、社長の口から出た言葉はとても悲しいものだった。
なんとお兄さんと彼女が飛行機に乗って旅行に行ってしまったそう。
私は怒りで思わず手が震えた。
「酷いですね。お兄さんと彼女さん。」
私がそう言うと社長は苦笑いを浮かべる。
「あはは。そう言ってくれてありがとう、中村さん。」
「本当、酷い話ですよ。ところでその彼女さんは今、どうされてるんですか?」
もしその彼女が近くにいるなら今すぐにでも怒鳴ってしまいたかった。
それくらい私は怒っていた。
「残念。もう彼女も兄と同様にこの世にはいないんだ。」
「え…?」
「飛行機事故で2人とも亡くなったんだ。」
社長は苦笑いを浮かべて続ける。
「本当、事故のことを聞いた時はびっくりしたよ。」
「もしかして亡くなった彼女さんってハーフですか?」
私がそう聞くと社長は驚きの表情を浮かべた。
「え!何で知ってるの?」
まさかのその彼女がミウナのお姉さんだということが判明した。
ということはつまり、マキのお姉さんと同時進行で付き合っていたのだろう。
なんて人たらしな兄だろうか。
私は社長からの問いに、なんとなくですと曖昧な返事をしてかわす。
すると社長は苦笑いを浮かべてこう言った。
「繰り返しになるけど、飛行機事故のことを知った時はびっくりしたよ。これが事実は小説より奇なりかとも思ったし。」
社長は笑ってはいたがどこか切なげだった。
私はそんな社長に少しでも前を向いてほしくて社長の瞳を見つめる。
「社長、罰ってあたるんですよ。それに大人になってからの悪癖は直らないんです。良かったじゃないですか。悩み事が減って。」
私がそう言うと社長は少し笑った。
「それもそうか。中村さん、ありがとうね。励ましてくれて。」
そう言って社長は空を飛ぶ飛行機を見つめる。
私も空を飛ぶ飛行機を見つめた。
そして私は心の中で思う。
「私が罰の話をしたのは、社長の彼女さんへの執着を解きたかったから。」
しかし、とうの私はというと社長への執着ばかりに捕らわれている。
だって高校生の頃から夢で社長を見つめ続けていたから。
そんじょそこらの女性たちとはわけが違うのだ。
だけれども、一生私は夢で社長のことをずっと見ていたことを社長には言えないだろうなと思った。
これはどうしても言えない壁のある片思いのような気もする。
私は社長の美しい横顔を見つめながらずっとこの時が続けばよいなと思った。
まさか就活中にお祈りメールばかり貰っていた私が、こんなにも穏やかな社会人ライフを過ごせていると誰が思っただろう。
デスクで少し伸びをしていたらお昼の時間になっていた。
隣の席のミウナに私は声をかける。
「ミウナ、駅前に新しく出来たパスタ屋さんでランチしない?」
私がお腹を空かせながらそう言うとミウナは楽しそうな笑顔を浮かべる。
そしてその美しい顔の前でピッタリと両手を合わせてごめんねのポーズをした。
「ごめん、ユカ。今日は先約があるの。」
そう言うとミウナはコンパクトについたミラーでまつ毛が上がっているかをチェックしだした。
どうやらこの感じから想像するに、その先約というのはデートなのだろう。
私はニンマリと笑ってミウナに声をまたかける。
「ミウナ、さてはデートでしょ?」
私がそう聞くとミウナは図星だったようで肩をビクンと少し上下させる。
「驚いた。なんでわかるの!?ユカってエスパーだったっけ!?」
ミウナはコンパクトをパカパカさせながらその美しい顔を驚きの表情に染めていく。
そんな時、私はというと、美女はどんな表情をしていても美しいんだななんて間抜けなことを考えていた。
ハーフ美女のミウナは今日も昨日と変わらず、いつだって美しい。
「エスパーっていうより、ミウナの顔にデートって書いてあっただけだよ。」
「ええ!?私、そんなに嬉しそうな表情だった!?」
ミウナはコンパクトをまたパカッと開けてミラーをジッと見つめている。
「うん。ミウナってわかりやすいよね。ところでランチデートの相手は誰なの?」
私がそう聞くとミウナは少し緊張した表情を浮かべる。
「近くにある商社の人とだよ。」
ミウナはそう言った。
だけれども、そう言ったミウナはいつものミウナとは少し違かった。
どうやらあのハーフ美女のミウナでも商社マンとのデートは緊張するらしい。
いつもは自信満々なミウナだけれど、可愛いところもあるんだなと思った。
「ところでその商社マンとはどこで出会ったの?」
「先週行った合コンでだよ。」
「え!それってマキも行ってた?」
マキというのは桜が似合う同僚美女のことだ。
「うん。マキも近々、合コンで知り合った商社マンとデートするんじゃない?」
実を言うと先週、マキは合コンに行くからと気合を入れてエステに行っていた。
商社マンが相手の合コンならそれくらい気合をいれていくのがマキの考え方なのだろう。
そして美女2人にここまで気合を入れてくる商社マンの力にはびっくりさせられる。
「ランチデート楽しんできてね。」
私がそう言うとミウナは嬉しそうに頷いた。
その後、私は会社の1階にあるコンビニでペペロンチーノを買い、屋上へと向かう。
駅前に新しく出来たパスタ屋さんに行きたかったけれど、今日はミウナのために我慢だ。
私は屋上にあるベンチに座り、ペペロンチーノを1ススリしながら空を見上げた。
「ミウナ、ランチデート上手くいくと良いな。」
ペペロンチーノのしょっぱさが独り身にしみる。
こんなにも天気が良い日に1人で屋上ランチはさすがに寂しいものがあった。
「あ。飛行機だ。」
再度、見上げた空には飛行機が1つ飛んでいた。
あの飛行機にはCAさんが乗っていてパイロットもいる。
「ミウナが商社マンを狙うなら、私はパイロットでもいってみる?」
ペペロンチーノをススリながらそんなことを私は考えていた。
というかものすごくその時、気が抜けていたと思う。
それが良くなかった。
「奇遇だね。中村さん。」
声のした方向へ視線を向けると、そこには驚くべきことに社長がいた。
なぜ、どうして、こんな間抜けな表情を浮かべながらペペロンチーノをススッてる時に社長が来てしまうんだろう。
私は自分の頬が火照っていることを瞬時に悟る。
今頃、ミウナはオシャレなレストランで商社マンとランチしてるだろうに、この差はなんだろう。
そうやって私がゴチャゴチャと色々考えていると社長は空を指さした。
「お!飛行機だね。」
空を飛ぶ飛行機を指さす社長。
だけど、その表情は少し切なげだった。
気になった私は社長に質問をしてみる。
「社長、なにかありましたか?」
私がそう言うと社長は驚きの表情を浮かべる。
「驚いたな。どうしてわかるんだい?」
「社長が悲しそうな表情を浮かべてたからです…。」
私がそう言うと社長は笑いだす。
「参ったな。俺、子供の頃から表情に出やすいんだよね。」
そう笑う社長はいつもより幼さが見えてやっぱり弟っぽいなと思った。
弟っぽい、そう思った私は気になっていたことを切り出す。
「そうなんですね。そういえば社長にはお兄さんがいるんですよね?」
私がそう質問すると社長はまた少し切なげな表情を浮かべた。
「うん、いるよ。正しくはいた、だけどね。」
「いた?それってつまり…。」
飛行機の飛ぶ音が少し大きくなった気がした。
「うん。兄は少し前に亡くなってるんだ。」
「え…。」
意外な答えだった。
飲み会の席で話題になった社長の爆モテお兄さんが亡くなっていただなんて。
すると社長は淡々とお兄さんのことについて話し出す。
本当だったら次期社長はお兄さんだったこと、そのお兄さんは社長の何倍も人たらしでモテモテだったこと。
そして素晴らしい経営者としての素質があり、一生勝てない兄だということ。
ここまでだととても素晴らしい兄だ。
しかし、次の瞬間、私は自分の耳を疑った。
「そんな兄だったけど、兄は僕の彼女と浮気していたんだ。」
「え…。」
「前からわかっていたことだったんだ。俺の兄と彼女が浮気していたことは。」
「そうだったんですね…。」
「正直、俺は怒ればよかった。だけどどこかで兄には勝てないと思ってたし、スペック負けを認めて見て見ぬふりをしてたんだ。」
人たらしの社長の意外な弱気の一面に私はとても驚く。
その後、社長の口から出た言葉はとても悲しいものだった。
なんとお兄さんと彼女が飛行機に乗って旅行に行ってしまったそう。
私は怒りで思わず手が震えた。
「酷いですね。お兄さんと彼女さん。」
私がそう言うと社長は苦笑いを浮かべる。
「あはは。そう言ってくれてありがとう、中村さん。」
「本当、酷い話ですよ。ところでその彼女さんは今、どうされてるんですか?」
もしその彼女が近くにいるなら今すぐにでも怒鳴ってしまいたかった。
それくらい私は怒っていた。
「残念。もう彼女も兄と同様にこの世にはいないんだ。」
「え…?」
「飛行機事故で2人とも亡くなったんだ。」
社長は苦笑いを浮かべて続ける。
「本当、事故のことを聞いた時はびっくりしたよ。」
「もしかして亡くなった彼女さんってハーフですか?」
私がそう聞くと社長は驚きの表情を浮かべた。
「え!何で知ってるの?」
まさかのその彼女がミウナのお姉さんだということが判明した。
ということはつまり、マキのお姉さんと同時進行で付き合っていたのだろう。
なんて人たらしな兄だろうか。
私は社長からの問いに、なんとなくですと曖昧な返事をしてかわす。
すると社長は苦笑いを浮かべてこう言った。
「繰り返しになるけど、飛行機事故のことを知った時はびっくりしたよ。これが事実は小説より奇なりかとも思ったし。」
社長は笑ってはいたがどこか切なげだった。
私はそんな社長に少しでも前を向いてほしくて社長の瞳を見つめる。
「社長、罰ってあたるんですよ。それに大人になってからの悪癖は直らないんです。良かったじゃないですか。悩み事が減って。」
私がそう言うと社長は少し笑った。
「それもそうか。中村さん、ありがとうね。励ましてくれて。」
そう言って社長は空を飛ぶ飛行機を見つめる。
私も空を飛ぶ飛行機を見つめた。
そして私は心の中で思う。
「私が罰の話をしたのは、社長の彼女さんへの執着を解きたかったから。」
しかし、とうの私はというと社長への執着ばかりに捕らわれている。
だって高校生の頃から夢で社長を見つめ続けていたから。
そんじょそこらの女性たちとはわけが違うのだ。
だけれども、一生私は夢で社長のことをずっと見ていたことを社長には言えないだろうなと思った。
これはどうしても言えない壁のある片思いのような気もする。
私は社長の美しい横顔を見つめながらずっとこの時が続けばよいなと思った。

