俺の叶わない恋と君のメモリー

静かな教室にシャーペンとノートの音が響く。

外ではザァザァと雨の音でいっぱいだ。

ふと顔を上げると、もう5時。

再びノートに視線を戻すと、自然に口からリズムがこぼれ落ちる。

「〜〜♪〜〜〜♪」

耳にタコが出来るくらいに聴いた歌。

誰もいない教室で歌う。

それが日課になっていた。

今日は雨が降っているからいつもより大きな声で歌える。

いつの間にか手が止まって、夢中になっていた。

すると、誰も居ないはずなのに廊下から物音が鳴った。

思わず

「 ー 誰? 」

(お願い。誰も居ないで…)

するとドアがら一人の男子が顔を出した。

まさか生徒がいるとわ思わなかったので、呆気にとられていると

「えっ、と1年Bクラスの一ノ瀬来亜です。す、すみません。勝手にのぞいてしまって。とても綺麗で…」

彼は早口に自己紹介をする。

焦っている。怒っていると思われたのだろうか。

「そう…」と短く答える。

私と彼の間に長い沈黙が流れる。

すると、耐えられなかったのか彼が先に口を開いた。

「あの、!…帰らないんですか?もう日が沈みかけて暗くなってきてますけど…」

確かに空はもう、日が落ちかけている。

歌を聴かれちゃったし………

悩んだ末、私が出した結論は…

「…一緒に帰らない?」

            ✾
手早く荷物をまとめ、急いで玄関に向かうと彼はほんの少し緊張しているように見えた。

並んで歩き出した時も緊張している様だ。

(急だったしな……)

そういえば自己紹介がまだだと気づく。

彼も話そうとしているのか口を開いたり閉じたりしている。

「ー私は1年Sクラス星名栞愛。敬語じゃなくていいし、私のことは好きに呼んで。」

「わ、分かった…俺にも敬語は使わなくていいし、好きに呼んで。」

「分かった。ーじゃぁ一ノ瀬くんでいい?」

「うん。俺は星名さんでいいかな?」

「栞愛でいい。苗字はあんまり好きじゃないし。」

「そ、そうなんだ」

少し間が空くと、

「なんで苗字嫌いなの?」

と聞いてきた。

すかさず口を開く。

「ー死んだ人は星になるっていうでしょ?」

と答える。

彼はよく分からないという顔をしながらも、理解したようだ。

「栞愛さんは方向こっちだったんだね。」

すると彼が話題を逸らす。

まぁ良いかと思い、質問に答える。

「うん。方向一緒だとは思わなかった。クラス違うし、帰る時間帯も違ったから。」

「栞愛さんは部活、やってないの?」

「やってない。やりたい部活ないし。」

「そっか。俺も入ってないけど、たまに小説書いてるから遅くなるんだ。」

(小説?)

まさか小説を書いているとは思わなかった。

今日は驚かされてばかりだ。

彼を盗み見てみると、「しまった!」という顔をしていた。

隠していたのだろう。

だが、聞いてしまったしここで話をそらすのも気まずい。

「ー小説、好きなの?」

「え、あ、うん。」
 
(好きなんだ…)

私も昔はよく読んでいた。

居つからだろう。読まなくなったのは。

「あ、あの!」
 
「なに?」

彼は恐る恐るといったふうに言う。

「わ、笑わないんですか?」

「何を?」

「小説書いてること」

「どこに笑う要素あんの?」

(ほんとに分からない…)

なんで笑うんだろう。

「別にいいじゃん。好きなことして。どうして好きなことを笑うの?笑うほうがおかしいじゃん。」

彼はいつの間にか泣いていた。

「、、あ…」

びっくりした。

まさか泣くとは思わなかった。

「なんで泣いてるの?」

「あの、、うれしくて…そう言ってもらえたの初めてで。小説のこと、笑わなかったのも。」

思わず黙ってしまう。

こういう時はそっとしておいたほうがいいだろう。

少しして、泣き止んだ彼は

「すみません。突然泣いてしまって。もう、大丈夫です。」

「別に謝ることじゃない。」

そう言うとゆっくりと歩き出す。

まだ明るかった空はいつの間にか真っ暗になっている。

「ねぇ、部活作らない?」

「え?」

彼は驚いていた。

私も驚いた。

でも、彼なら協力してくれるだろう。

何故かそう思えた。

「好きなことをして過ごす、秘密の部活。部員は私と一ノ瀬くんの2人だけ。どう?」

不思議だ。

彼なら……… と思えた。

「うん。いいよ。」

彼はあっさり答えた。

「じゃぁ、活動は放課後。場所はSクラス。部長は一ノ瀬くんで、副は私。」

「え?俺?」

順応が速い彼に追い打ちをかける。

「うん。よろしくね部長さん」

私は、数年ぶりに心から笑えた。