俺の叶わない恋と君のメモリー

家に帰って調べてみると、あの女の子の名前は星名栞愛だとすぐに分かった。

次の日の朝、俺の唯一の親友成亜に彼女のことを聞いてみると、

「あ ー、星名さんね。美人だよなぁ〜 俺もあんな美人の彼女欲しいけど、星名さん彼氏いるらしいしな ー
しかも超頭いいSクラスだしさぁ〜」

彼氏、居るんだ。

そりゃそうだよな。あんなに美人なのにいないわけがない。

俺の初恋はあっけなく終わったのだった。

           ✾

ボンヤリと空を眺める。

今日、俺の初恋は儚く散った。

第一、彼氏がいなくても俺なんか無理だ。

釣り合わないどころか、眼中にないだろうな。

どのくらい時間が経っただろうか。

いつの間にか日は沈みかけていて、暗くなってきている。

ヤバいと思い、急いで教室を出る。

するとまた、昨日と同じ教室から歌が聞こえてきた。

覗いてみるとやっぱり彼女だった。

しばらく見つめていると、突然彼女がこちらを向いた。

バレた!と急いで離れようとしたが、もう遅かった。

彼女とバッチリ目が合ってしまった。

「 ー 誰? 」

彼女から発せられた声は美しく、凛としていた。

思わず見惚れていた俺は、ハッとなって少し早口になりながらも答える。

「えっ、と1年Bクラスの一ノ瀬来亜です。す、すみません。勝手にのぞいてしまって。とても綺麗で…」

彼女は表情を変えることなく、「そう…」と短く答えた。

俺は重い沈黙に耐えられず、

「あの、!…帰らないんですか?もう日が沈みかけて暗くなってきてますけど…」

彼女は少し考えるような素振りを見せたあと

「…一緒に帰らない?」

            ✾

何故か俺は彼女に失恋したあと一緒に帰ることになってしまった。

誰もいない、静かな道を2人並んで歩く。

(す、凄く気まずい!!)

何か話さなきゃと考えていると、おもむろに彼女が口を開いた。

「ー私は1年Sクラス星名栞愛。敬語じゃなくていいし、私のことは好きに呼んで。」

「わ、分かった…俺にも敬語は使わなくていいし、好きに呼んで。」

「分かった。ーじゃぁ一ノ瀬くんでいい?」

「うん。俺は星名さんでいいかな?」

「栞愛でいい。苗字はあんまり好きじゃないし。」

「そ、そうなんだ」

気まずい空気に耐えられなくて俺はとっさに、

「なんで苗字嫌いなの?」

「ー死んだ人は星になるっていうでしょ?」

と答えた。

俺は言葉の意味を理解できなかったけど、表情は寂しそうで、怒っているようだった。

「栞愛さんは方向こっちだったんだね。」

何となく話題を逸らしたくて、彼女に話しかける。

「うん。方向一緒だとは思わなかった。クラス違うし、帰る時間帯も違ったから。」

「栞愛さんは部活、やってないの?」

「やってない。やりたい部活ないし。」

「そっか。俺も入ってないけど、たまに小説書いてるから遅くなるんだ。」

そこまで言い終えて、俺はハッとした。

(しまった!小説のこと、言っちゃった。絶対笑われるよな…)

「ー小説、好きなの?」

「え、あ、うん。」
 
それっきり彼女は口を閉ざした。

「あ、あの!」
 
「なに?」

「わ、笑わないんですか?」

「何を?」

「小説書いてること」

「どこに笑う要素あんの?」

俺はキョトンとした。

毎回小説のことを笑われていた。

小学生のときも、中学生のときも。

栞愛さんだけが笑わなかった。

俺は戸惑いを隠せなかったがそんな俺を気にすることもなく、続けた。

「別にいいじゃん。好きなことして。どうして好きなことを笑うの?笑うほうがおかしいじゃん。」

俺はいつの間にか泣いていた。

「、、あ…」

止めようとしても止まらない。熱い何かがこみ上げてくる。

「なんで泣いてるの?」

栞愛さんはこんな時でも表情を変えない。

俺は何とか声を出して答えた。

「あの、、うれしくて…そう言ってもらえたの初めてで。小説のこと、笑わなかったのも。」

彼女は何も言わなかった。

少しして泣き止んだ俺は栞愛さんに話しかけた。

「すみません。突然泣いてしまって。もう、大丈夫です。」

「別に謝ることじゃない。」

そう言うとゆっくりと歩き出した。

まだ明るかった空はいつの間にか真っ暗になっていた。

静かで俺たちの歩く音だけが響いている。

梅雨の夜の空気は少し肌寒い。

もう夏になるのに寒いなと思っていると、

「ねぇ、部活作らない?」

「え?」

凄く急だ。

混乱していると

「好きなことをして過ごす、秘密の部活。部員は私と一ノ瀬くんの2人だけ。どう?」

好きなことをするだけなら今と変わらない。

しかも2人だけだから小説も書ける。

「うん。いいよ。」

「じゃぁ、活動は放課後。場所はSクラス。部長は一ノ瀬くんで、副は私。」

「え?俺?」

いきなり部長に任命され、追いつけづにいると

「うん。よろしくね部長さん」

その時、初めて彼女が笑った気がした。