黒板に名前を書いて、趣味を言えばいいーー。
簡単なことに思えるかもしれないけど、それが私にとっては何よりも苦しい時間だった。
唇は乾くし、極度の緊張で手も震える。
震える手でなんとか名前を書き終えると、私はみんなの前に向き直った。
『さ、坂本 華子(さかもと かこ)です。えと…好きなことは、本を読むことでーー』
『字も声も、ちっさ』
いちばん後ろの席から、でもしっかりと響いた声。
それが、中里さんだった。
『あたし今まで、坂本さんの名前、ハナコだと思ってたんだよねー』
その声に、クラスからクスクスと笑う声がした。


