心臓が、うるさいくらいに鳴り始める。


「何泣いてんのかって、聞いてんだけど」


今まで経験したことのない変な感情に、俺はぶっきらぼうな言葉しか口にすることができなかった。


「……帰り道、わからなくなっちゃった」


すげえ小さい声で、そいつはしぼりだすように言った。


「ふぅん。お前、何年生?」


「…ご、5年生」


学年は俺と同じらしい。
でも学校でこんなやつは見たことがないから、違う地区から来たのだろう。


「なんで迷う羽目になったわけ」


「…お、お母さんの友達のお家に来てたんだけど、退屈になって…ひとりで探検してたら、どっちから来たかわからなくなっちゃった…」


やっと止まりかけていた涙がまた込み上げてきたのか、声が震えている。