俺は小さいころから、自分の感情を言葉にすることが苦手で、笑うことも得意ではなかった。
周囲に比べれば体も小さく、何をされても押し黙ったままの俺は同級生や上級生からのからかいを受けることが多かった。
口下手な分、つい手が先に出てしまうことも多く、喧嘩は日常茶飯事で。
擦り傷や切り傷をいくつ作ったかもわからない。
俺の家は、母親がいない。
俺が5歳の頃に、家を出て行った。
後から知ったのは、仕事で忙しくしている親父に愛想を尽かして、他所に男をつくって、出て行ったこと。
親父が母親の全てのものを処分したのか、写真は1枚も残っていない。
だから、俺の中の母親は、いつの日か顔も声もぼんやりとしか思い出せないようになっていた。


