い、いけない!集中、集中…
「あの、少し腕、触りますね…?」
「…ああ」
彼は息を呑んだように、すこし緊張を含んだ声色で答えた気がする。
少し震える指先で、傷口の近くに触れる。
幸いにも傷口はそんなに深くもなく、血もすでに止まっているようだ。
「あ、あの今から消毒液つけますけど、しみたらすぐに言ってくださいね」
ガーゼに消毒液を染み込ませて、傷口の内側から外側へ丁寧に拭いていく。
消毒液がしみて痛いはずなのに、目の前の端正な顔つきは涼しいまま、眉ひとつ動かさない。
…そういえば、この人の名前、まだ聞いてなかった…
ふとそんなことを思い出して、私は恐る恐る尋ねてみることにした。


