本音をいうと、私自身が買い物中に、店員さんに声をかけられるというのは苦手なので、敢えて気づかないふりをした。

しかし、その人はいつまでも帰る様子もなく、かれこれ30分ほど逡巡しているので、流石にこれは声をかけた方がいいかな⋯⋯と思い、私は外へ向かった。

「いらっしゃいませ。あの、よろしければ店内でゆっくりご覧になりませんか?雨も激しいですし⋯⋯」

すると、相手は、

「ありがとうございます。実は、花屋さんに来るのは初めてで、どうして良いものかと⋯⋯」

照れたように笑った。

このお客様は、多分20代の社会人と思われる青年。

爽やか、という言葉がこんなに似合う人も珍しいな⋯⋯しかし、その眼差しには、やや翳りもある。

ぼんやりそう思い、

「贈り物ですか?」

そうたずねると、彼は少しの間のあと、

「はい」

とだけ答えた。

「お相手がどんな花をお好みかはご存知ですか?」