召喚された司書の相談所〜偽装結婚ですが旦那様にひたすら尽くされています〜

「……ありがとうございます。私も誇りのある仕事だと思っています。母の跡を継いで、立派な仕立て屋になりたい、そう思っていました」

 過去形……つまり、そういうことか。

「迷っていらっしゃるんですね。けれど、他に興味を持つことは、悪いことではないと思います」
「最初、母も同じことを言ってくれていました。「この街の仕立て屋はウチだけじゃないんだから、やりたいことを見つけたら、遠慮するんじゃないよ」って」
「素敵なお母様ですね」

 私は率直な感想を述べた。少女もまた、同意するかのように表情を和らげる。けれど次の瞬間、再び表情を曇らせた。

「だけど、口ではそう言いつつも、どこかで私に継いでほしいと期待していたんじゃないかって、最近思うようになったんです。私がお菓子職人になりたいって言ったら、急に怒りだして」

 つまり、応援してくれると思っていたのに、反対されたということかな。

「お菓子職人が気に入らなかったのでしょうか」
「同じ並びにパティスリーがあるんです。そこに並ぶマドレーヌやスコーンが可愛くて。母と一緒に買いに行ったこともあるんですよ。その時の反応は、別に悪くなったので、大丈夫かと思ったんですが」
「なぜか反対された、と」
「はい」

 ショーケースに入ったお菓子は、確かに可愛いし、年頃の女の子が憧れるのも無理はない。仕立て屋とお菓子職人では、片手間にできる仕事でもないから、両立は難しいだろう。
 趣味ならともかくとして。