二学期が始まってすぐ、顧問の先生から「地域の演奏会に招待された」と聞いた。

それは、私たち一年生にとって初めての“人前での演奏”。

しかも、夏休み前に引退した三年生のみら先輩が見に来てくれると聞いて、胸が高鳴った。
 

「みら先輩や、あゆか先輩に、成長したって思ってもらいたい」 そんな気持ちが、あって私は一生懸命練習に励んだ。

合奏の時間が増えて、部室にはいつもよりも熱気が漂っていた。

私もホルンの音が、みんなの中でどう響くかを意識するようになった。




「今のとこ、もう一回合わせよう!」

「テンポ、ちょっと走ってるかも!」

そんな声が飛び交う合奏は、楽しくて、あっという間に時間が過ぎていった。

でも、土曜日になると、顧問の先生が来ない日がちらほらあった。

その日は個人練習。

個人練習はつまらなくて、正直、部活に行くのめんどくさいと思っていた。

土曜日は、朝早くに集まらないといけないし、練習時間も長い。

そんな中、個人練習だから、一人で、ずっと譜面台に向かって吹き続ける。

だから土曜日はいつも部室は静かで、みんなそれぞれの楽器と向き合っていたけど、どこか物足りなくて、つまんなかった。

私はみら先輩やあゆか先輩にうまくなったと思われたくて、すごく練習した。

だからもう楽譜も覚えて退屈、、、


「合奏の方が楽しいな…」 「今日、誰とも話してないかも」

そんな日が続くと、ちょっとだけ気持ちが沈んだ。

でも、芽衣歌ちゃんが帰り際に「今日の個人練、ちょっと寂しかったね」って言ってくれて、私は「うん、早く合奏したいね」って返した。


芽衣歌ちゃんも吹奏楽が楽しいって思っているみたいで、なんだかうれしかった。

演奏会まであと少し。

音を合わせるたびに、私たちの“絆”も少しずつ重なっていく気がした。


本番の日の朝、部室には少しだけ緊張した空気が漂っていた。

みんなで軽く合奏をして、音のバランスを確認する。

「大丈夫、ちゃんと鳴ってる」

そう思えた瞬間、少しだけ心が落ち着いた。

それから、楽器の手入れと運搬の準備。

詩妃はトランペットだから、ささっとケースを持って階段を駆け上がっていった。

でも、ユーフォニアムの芽衣歌ちゃんと、ホルンの私は、楽器が重くてゆっくりしか進めない。

「うわ、階段きついね…」

「ほんと…」

「ドラえもんのスモールライトあればいいのにー」

とか話していたら、チューバの子と、二年生のユーフォニアムの先輩が声をかけてくれた。

「エレベーター使っていいよー」

その優しさが、なんだかすごく嬉しかった。



会場に着いてからも、心臓がずっとドキドキしていた。

初めての人前での発表。

客席には、みら先輩の姿も見えた。


演奏が始まると、緊張は少しずつほどけていった。

みんなの音が重なって、ひとつになっていく感覚。

私、音出せてる、、

無事に演奏が終わったとき、客席から拍手が聞こえた。


終演後、みら先輩が駆け寄ってきてくれた。

「みんな、すっごくよくなってるよ!奏流ちゃん!」

その言葉に、胸がじんわり熱くなった。

そして、仲間と一緒に音をつくることの楽しさを、心から感じた。


地域の演奏会が終わった帰り道。

私はずっと余韻に浸っていた。

「緊張したけど、楽しかった」

そんな気持ちが、胸の中でふわふわと浮かんでいた。


みら先輩が「すっごくよくなってる!」って言ってくれた言葉も、ずっと頭の中で響いていた。

あの一言で、今までの練習が全部報われた気がした。

最初、希望の楽器になってた、双子で、昔から友達だった茄致子(なちこ)弥簔(やみの)が第一希望の楽器になったって自慢してきてたから、悔しくて、うまくなって見返すとしか考えていなかった。

“自分で選んだ楽器じゃない”って思ってたホルンが、少しずつ“自分の音”になってきている。

希望の楽器じゃ無くて泣いた日、そのあともへこんでいた日それが嘘みたいに楽しくなっていた。

それが、嬉しかった。

そして数日後、先生から次の発表の話があった。

「次はホールでの発表会。校外の大きな舞台です」

その言葉に、部室がざわついた。

みんなの目が、少しだけキラキラしていた。

私も、心の奥がじんわり熱くなった。

もっと音をきれいに鳴らしたい。

もっと、誰かに届く音を吹きたい。

そんな気持ちが、自然と湧いてきた。


それからの練習は、少しだけ空気が変わった。

「今のとこ、フルート、先輩の音聞いて入って。」

先生の指示に、みんなが真剣に応えていた。

土曜日の個人練も、前より少しだけ前向きになった。

崎原先生も前よりも来てくれるようになり、面白くて楽しい合奏になった。

崎原先生は入部してすぐに、部員のみんなとかと話して、距離が近くなってて、合奏中に面白いたとえで言ってくれたり、楽しかった。

「ホールで響かせるには、もっと息を安定させないと」

そんなことを考えながら、鏡の前で口の形を確認した。

そして、ホールでの本番の日が近づいていた。


発表会当日の朝。

部室には、いつもより静かな緊張感が漂っていた。

みんな、言葉少なに楽器の手入れをしていたけど、目はどこかキラキラしていた。


会場に着くと、 ステージの照明、広い客席、響きそうな空間。

「ここで音を出すんだ…」 そう思っただけで、胸がドキドキした。

そして本番。

ステージに立った瞬間、客席のざわめきがすっと静まり、空気が張りつめた。

指揮者の手が上がり、音が動き出す。

最初の一音。

ホールに響いたその音に、私は思わず息を呑んだ。

「これが、みんなで作った音なんだ」

そう思ったら、緊張よりも嬉しさが勝った。

演奏が進むにつれて、音が重なり、広がり、ひとつになっていった。

ホルンの音が、ちゃんと響いている。 うれしい_!

舞台袖で、芽衣歌ちゃんと目が合った。

「すごかったね」

「うん、めっちゃ楽しかった」

詩妃も「最高だったー!」と笑っていた。